九、しんじつの手
「ゲンマ、悪いがこの任務に来てくれ。」
ひらひらと依頼書をなびかせ、カカシは報告を終えたばかりのゲンマに告げた。
「カカシさぁん、それ頼んでないっしょ、決定でしょうが。」
「あーそうとも言うね。一週間の休暇も付くんだけどねー。まなみのお守りもなしでねー。」
さっさと歩き出したカカシの後を、ゲンマは手を揉みひょこひょことおどけながら付いていく。
「ゲンマは見ているだけでいいから。」
「おやお代官様ったら、強気で。」
「イルカに何かあったんですか?」
樹の上を走りながら途端に口調が変わり、ゲンマは食い付くようにカカシを睨んだ。
「まあまあ、この辺でいいかな、落ち着いて。」
カカシは太い枝に胡座をかいた。
「怒らないでね。」
「聞いてみなきゃ判らんですって。何か俺が怒るような事を、あいつがしたんですかい。」
「いやイルカもそうだけど、俺もなの。」
「余計に解りませんって。何ですか。」
うーあー、とカカシはきょろきょろしながら言いあぐねている。
「だからあ、早くしないと任務に支障が出るんじゃないですか。」
「あ、それは写輪眼であっという間よ。」
「いいから早く言えよっ、ボケ老人かい。」
「だから早漏なのよ、ゲンマちゃん。」
「あんたは話す前から俺を怒らせてんじゃねーかっ。」
はは、とカカシは困った顔で頭を掻いた。
「まなみの父親って、俺だったの。」
「は?」
「俺とイルカの娘がまなみなのよ。」
驚きすぎたゲンマが枝から滑り落ち、カカシが足を掴んで戻してやる。
「あちゃーカカシさん、雷だったあ。」
「青い目、雷、心当たりあり、タネも当たり。」
照れ臭いからってふざけすぎ。と口の中でもにょもにょ言うゲンマは納得がいかないらしい。
「何でも答えるから、質問して。」
とそれから暫く一問一答形式で話は進み、ゲンマは漸く納得した。
「明日ね、まなみの誕生日でしょ。イルカが父親について話す日。間に合って良かったな、って思うんだ。」
それからゲンマは大泣きし続け、結局カカシは一人で戦った。迷惑を掛け続けたお詫びはまだまだ続けなきゃね、とゲンマに正座して頭を下げたカカシはゲンマをおぶって帰還した。
「まなみ、五才の誕生日ね。おめでとう。」
「ありがとう、かあさま。」
まなみが眠っている夜中から朝までケーキを焼いて好物を作って、イルカは一睡もしていない。眠れなかったから料理をしていた、というのが正解か。酷く緊張している。
まなみは並べられた料理を先に食べたいが父親の話も聞きたい、とそわそわしていた。
居間の中央でまなみに向き合い、イルカは深呼吸して言った。
「とうさまの事ですが、やっと話せます。」
イルカの敬語に、重大な話だとまなみも姿勢を正した。
「とうさまに会いたかったでしょう。」
イルカの言葉に、音もなく人影がまなみの前に現れた。
「まなみ、誕生日おめでとう。」
いきなり現れたカカシの首に、迷う事なくまなみは飛び付いた。
「とうさま、とうさま。」
大声を張り上げてまなみは泣き続けた。暫くそのまま見守るイルカは静かに涙を流し、まなみの気が収まるとカカシから離し抱き締めた。
「ごめんね、ずっとごめんね。」
「いいの、かあさまがずっと泣いてたの知ってる。あたしのせいだって。」
カカシが二人を長い腕で包み込む。
「違うよ、まなみは悪くない。まなみがそれを解るのは十年後だけどね。その時が来たら、今度はとうさまが話してあげる。」
「じゃあとうさまはどこにも行かないの?」
「とうさまはここにいていいのかい?」
「いなきゃ駄目。」
また泣き出したまなみの背を、二人の手が撫で続けた。
「まなみの名前にはね。」
泣き腫らした目を擦りながらカカシの服を握るまなみを、イルカは覗き込んで話し出した。
「真実という字があるの。」
知らなかった、とカカシが呟いた。
「私だけが解っていればいいと思ってたんです。」
目を伏せて笑った。
あの頃、抱かれる内にカカシのチャクラの流れが変わっていったのだ。水の性質のイルカには雷が流れやすかった。
体を売りながら、次第に相手の性質が判る事に気付いた。カカシに抱かれる時には荒れたカカシ自身のような雷に体中を内側から打たれ、疲弊する毎日が続いた。しかし気付けば、慣れた訳ではなくチャクラが静かに流れ出したのだ。
カカシの愛撫が優しくなったのも同時期だった。
少しでも愛されている、と解ったからまなみを産めた。
これはイルカだけの秘密にしておきたい、と真実を胸に抱き続けた五年間。
まなみが鏡を持ってきた。
ほら、三人が並ぶと家族だって判るでしょ。
「ゲンマ、悪いがこの任務に来てくれ。」
ひらひらと依頼書をなびかせ、カカシは報告を終えたばかりのゲンマに告げた。
「カカシさぁん、それ頼んでないっしょ、決定でしょうが。」
「あーそうとも言うね。一週間の休暇も付くんだけどねー。まなみのお守りもなしでねー。」
さっさと歩き出したカカシの後を、ゲンマは手を揉みひょこひょことおどけながら付いていく。
「ゲンマは見ているだけでいいから。」
「おやお代官様ったら、強気で。」
「イルカに何かあったんですか?」
樹の上を走りながら途端に口調が変わり、ゲンマは食い付くようにカカシを睨んだ。
「まあまあ、この辺でいいかな、落ち着いて。」
カカシは太い枝に胡座をかいた。
「怒らないでね。」
「聞いてみなきゃ判らんですって。何か俺が怒るような事を、あいつがしたんですかい。」
「いやイルカもそうだけど、俺もなの。」
「余計に解りませんって。何ですか。」
うーあー、とカカシはきょろきょろしながら言いあぐねている。
「だからあ、早くしないと任務に支障が出るんじゃないですか。」
「あ、それは写輪眼であっという間よ。」
「いいから早く言えよっ、ボケ老人かい。」
「だから早漏なのよ、ゲンマちゃん。」
「あんたは話す前から俺を怒らせてんじゃねーかっ。」
はは、とカカシは困った顔で頭を掻いた。
「まなみの父親って、俺だったの。」
「は?」
「俺とイルカの娘がまなみなのよ。」
驚きすぎたゲンマが枝から滑り落ち、カカシが足を掴んで戻してやる。
「あちゃーカカシさん、雷だったあ。」
「青い目、雷、心当たりあり、タネも当たり。」
照れ臭いからってふざけすぎ。と口の中でもにょもにょ言うゲンマは納得がいかないらしい。
「何でも答えるから、質問して。」
とそれから暫く一問一答形式で話は進み、ゲンマは漸く納得した。
「明日ね、まなみの誕生日でしょ。イルカが父親について話す日。間に合って良かったな、って思うんだ。」
それからゲンマは大泣きし続け、結局カカシは一人で戦った。迷惑を掛け続けたお詫びはまだまだ続けなきゃね、とゲンマに正座して頭を下げたカカシはゲンマをおぶって帰還した。
「まなみ、五才の誕生日ね。おめでとう。」
「ありがとう、かあさま。」
まなみが眠っている夜中から朝までケーキを焼いて好物を作って、イルカは一睡もしていない。眠れなかったから料理をしていた、というのが正解か。酷く緊張している。
まなみは並べられた料理を先に食べたいが父親の話も聞きたい、とそわそわしていた。
居間の中央でまなみに向き合い、イルカは深呼吸して言った。
「とうさまの事ですが、やっと話せます。」
イルカの敬語に、重大な話だとまなみも姿勢を正した。
「とうさまに会いたかったでしょう。」
イルカの言葉に、音もなく人影がまなみの前に現れた。
「まなみ、誕生日おめでとう。」
いきなり現れたカカシの首に、迷う事なくまなみは飛び付いた。
「とうさま、とうさま。」
大声を張り上げてまなみは泣き続けた。暫くそのまま見守るイルカは静かに涙を流し、まなみの気が収まるとカカシから離し抱き締めた。
「ごめんね、ずっとごめんね。」
「いいの、かあさまがずっと泣いてたの知ってる。あたしのせいだって。」
カカシが二人を長い腕で包み込む。
「違うよ、まなみは悪くない。まなみがそれを解るのは十年後だけどね。その時が来たら、今度はとうさまが話してあげる。」
「じゃあとうさまはどこにも行かないの?」
「とうさまはここにいていいのかい?」
「いなきゃ駄目。」
また泣き出したまなみの背を、二人の手が撫で続けた。
「まなみの名前にはね。」
泣き腫らした目を擦りながらカカシの服を握るまなみを、イルカは覗き込んで話し出した。
「真実という字があるの。」
知らなかった、とカカシが呟いた。
「私だけが解っていればいいと思ってたんです。」
目を伏せて笑った。
あの頃、抱かれる内にカカシのチャクラの流れが変わっていったのだ。水の性質のイルカには雷が流れやすかった。
体を売りながら、次第に相手の性質が判る事に気付いた。カカシに抱かれる時には荒れたカカシ自身のような雷に体中を内側から打たれ、疲弊する毎日が続いた。しかし気付けば、慣れた訳ではなくチャクラが静かに流れ出したのだ。
カカシの愛撫が優しくなったのも同時期だった。
少しでも愛されている、と解ったからまなみを産めた。
これはイルカだけの秘密にしておきたい、と真実を胸に抱き続けた五年間。
まなみが鏡を持ってきた。
ほら、三人が並ぶと家族だって判るでしょ。
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