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六、震える手
可能性の話だけど。と前置きしてカカシは話し出した。
カカシとまなみが手を握り合うとチャクラが通じた事。ターゲットが絞れるならまなみが探せるのではないか、と。
「何も知らないあの子にいきなり男の手を握れなんて、…言えないよねえ。」
ちびりとカカシは酒を舐める。
「もうカカシさんが父親でいいっしょ、いやなってやってくださいよ。」
「いやもう振られた。」
「はあ?」
イルカの馬鹿野郎、何の文句があるんだよとゲンマはテーブルに突っ伏してぐずぐず泣き出した。
さっき帰った筈の彼女がゲンマの肩に手を置いて泣かないの、と優しく宥める。
あんたいい女だね、ゲンマを宜しくね。とカカシは二人を残して店を出た。
何故だろうか、イルカが気になるのは恋情だけでない。
そしてまなみのチャクラ。
軽い酔いで、カカシは引っ掛かるそれが思い出せずにぐるぐる回る。
思い出せ、思い出せ。
辿り着いた自分の部屋でも思い出そうとしながら、カカシは眠ってしまった。
夢の中で、カカシは若い頃の暗部の姿をしていた。
水影交代で炙り出された反対派のクーデターだ、と冷静に見ている自分がいた。
毎日のようにそれを潰しに走り回り、血まみれになって基地に帰る。たまに様子見に暇ができ、昼間から女を囲う。
若いカカシに宛てがわれたのは少女と言える程に若い女だったが、肉付きの薄い体は既に男をよく知っていて、カカシを飽きさせなかった。その女をひと月は抱き続けたか。
だがクーデターは唐突に終わり、暗部はすぐに撤収した。後始末は正規の忍びに任せろと言われれば、暫く休めると安堵で帰還した。

朝日がカーテンの隙間から直接まぶたを射って目を覚ました。六年近く前の事を、よく思い出せたと額に浮かぶ汗を拭いながらカカシは起き上がった。
夢で見た何かを忘れた。大事な事だった筈が、起きると思い出せない。
あの少女の事か。しかし当時も今も知らない顔だ。
「最近よく寝てないかな。」
独り言は確認するために出るのだと聞いた事がある。
「何をだよ。」
笑いながらカカシは待たせている部下達に今日の言い訳を考え始め、夢を忘れた。

「カカシ先生、遅いよお。」
「まなみ、どうしたの。」
「かあさまはアカデミーの会議だから、邪魔しちゃいけないの。ナルト兄ちゃんが連れてきてくれたの。」
脚にしがみつくまなみを肩車し、遅刻を責める部下達を無視してカカシは畑を耕す任務に向かった。
「あたしね、アカデミーに行かなきゃいけないの。」
「次の春から?」
サクラの問いに、昼ごはんを畑の真ん中で食べながら、まなみは首を横に振った。
「五才になったらすぐなんだって、火影様に言われた。かあさまのクラスだから嬉しいけど。」
「嘘、ありえない。まなみは優秀ねえ。」
どういう事、とカカシは尋ねた。
年度途中に入学試験なしに火影推薦で入学するのは、よほどの素質があるからで。しかも今のイルカのクラスは、持って生まれたチャクラの性質を元に、他の性質を組み合わせる術の基礎を教えている。前線に出る忍びを育てる、いわばエリートクラスだ。
へえイルカ先生凄いんだ、と意外な事実にカカシは驚いた。
「イルカ先生は、水遁と土遁と組み合わせて凄い技が使えるんだってば。あ、風遁でオレ、アカデミーの屋根に飛ばされた事あるんだってばよ。」
「あれはあんたが一日で十個目のいたずらを仕掛けたからでしょ。」
「イルカ先生もいちいちよくこんな奴に構ってたよな。」
「何だとサスケ、もう一回言ってみろ。」
そんなにアカデミーの屋根に登りたいのかい、とカカシはぼそりと呟いた。
すっと空気が冷え三人は黙り込んだが、まなみはにこにことカカシの膝で寛いでいる。それだけでも、入学を伸ばしきれずに折れた事が解る場面だ。
気の干渉を受けない、もしくは流せる。敵の気に潰されないために、大抵は修業で身に付けるものだ。それがこの小さな体で既に発揮できているのだから、逸材と言っていいのだろう。

結局まなみは一日預かった。会議は午前中に終わったが、午後は火影に呼ばれてまなみの事について話さなければならない、と連絡がきたからだ。
カカシがまなみを職員室に連れて行くと、まだ終わらないと言われた。
預けようにも誰も手が空かない。
「カカシ先生、あたしは一人でかあさまを待ってられるから大丈夫よ。」
慣れてるし、と小さなまなみには広すぎるイルカの机で、床まで届かない脚を揺らし本を読む姿がカカシには痛々しく見えて、笑顔が見たいと連れて出た。
「あのさ、実は俺この店に入りたいんだ。お願いします、一緒に入って。」
カカシがまなみに頼んだのは、可愛い小物のディスプレイが店先に賑やかな雑貨屋に入る事だった。
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