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二、すがる手
一泊の任務。ただの食料品補給に駆り出された。
イルカは生活費のためにアカデミー教師以外にも受付と報告、そして簡単なお使いに外へ出る。
戦地は危険手当てが出るから、横取りしてでも行きたい。そうはっきり言えば、まず先に回ってくるようになった。若いイルカの安月給でまなみを養っている事は皆承知で、賢いまなみが心配を掛けないようにイルカに笑うのも知っていたから。

イルカ、と闇に紛れて聞こえる女の声。
「あんたが里では嫌だって言うから、あたしが呼んだのよ。」
「まだ私に用がありますか、いい加減に決まった人を作ってくださいよ。…本当に、お久し振りですね。」
赤いショートカットの女がイルカを背中から抱き締めた。
副隊長なだけあって大柄で逞しい。今までにもイルカは、男に抱かれているような錯覚を起こす事があった。

はあはあと漏れる息は甘く、二人分の汗は空気を湿らせている。
イルカは裸で簡易ベッドの四隅の鉄柵にそれぞれ四肢を縛られ、全身に愛撫を受けていた。そういう指向のある人だったなあ、とイルカはぼんやりと思い出したが気持ちいいからいいや、と快感の波に飲まれる。
女は指に厚いシリコンのサックを着けて、イルカの秘所にゆっくり回し入れた。表面のイボが内壁を擦り、ぐちぐちと音をたてる。女は空いた片手でイルカの肌を撫で回し、恍惚の表情を浮かべた。
ぬちゃ、と淫らな水音に耳からも興奮し、イルカは腰を振る。そこ、と擦れた一点に喘ぎが出て、的確に擦り続けられ頂点に達した。
乳を揺らし余韻に浸るイルカを眺めながら男根の張形を自分に突っ込み出し入れし、やがて女も果てた。
「イルカ、もう行くの。あたしの側にいて。」
「私も仕事なのよ。朝早く帰るし。」
朝まで共寝する気はない、と告げて服を着た。ひと肌に満足し、イルカは中忍以下の雑魚寝の天幕の片隅に転がって丸くなる。
あの人とはこれきりだろう。柔らかく温かいがそれだけ。何もかもうんざりだ、疲れた。

「ゲンマ、まなみをありがとうね。」
「また夜泣きしたぜ。勘が鋭い子だ、お前もいい加減にしろ。」
しがみつく我が子が可愛くない訳はない。イルカはぎゅうと抱き締めて、まなみの髪を撫でる。
「今日は早く帰れたから、夕ご飯の買い物に行くわ。」
明るく笑うとゲンマに手を振り親子は競争ね、と走り出した。
「さ、俺も行きますか。」
とゲンマは大門へ向かった。

「カカシさん、イルカの事をどう思いますか。」
夜営の火の前で、ゲンマは項垂れて火をつつきながらカカシをちらりと窺った。
「どう、って先生だなあって。若いけどよくやってるみたいじゃない、親としても。」
うーん、とゲンマは顔を擦って躊躇ったのちに話し出した。
「あいつね、誰かを、っていうか多分まなみの父親を探してるみたいなんすよ。いつかカカシさんの耳に入るでしょうから言っちゃいますが、寝て確かめてるんです。」
まさか、とカカシは口に出して驚いた。
子持ちだが色気に溢れているとは思った。たまに『おんな』を感じてぞくっと本能が反応したのは、誰かと交わった後だったのかもしれない。
「あー。そうなんだ。」
だけど、俺には何もしてやれないでしょ。と呟けば、ゲンマはそうですね、と目を閉じて黙った。
暫し火がはぜる音しか聞こえない。
沈黙を打ち消しおもむろにゲンマが話し出した内容は、カカシを打ちのめした。
「イルカは身を売って、災害で壊れた家を直す金を稼いでいたんです。」
九尾の襲撃後何年もゲンマは復興と任務に飛び回り、イルカに構ってやれなかった。カカシより幾つか年上のゲンマの更に上の世代は、あの夜里の外にいた少数を残して大半は死んでいたから。
イルカの家は半壊状態で、住めないからとアパートを借りた。ゲンマの母とは同じく壊れた家に引き取れなくてごめんね、と泣いて別れたものだ。
十五の時に赴いた戦地で、初めて伽を請われた。それは命令ではなかったから断れもしたが、いつかはやってくる事だとイルカは頷いた。身の上を聞いたその男は、イルカに幾ばくかの金を渡してくれた。
金のためと割り切れば辛くはなかった。男の紹介でそういった『客』は途切れず、イルカは金を貯め一年で壊れた家を直す事ができた。
思い出の詰まった家に戻りイルカは安らぎを取り戻したかに思えたが、ひと肌を知った心と体は一人に耐えられなかった。
進んで戦地へ出ては男を探す。いや、探さなくても食い付いてくる。時には女からも声が掛かり、イルカは全て受け入れた。
「俺が漸く家に戻れたのは、あれから三年近くたってからでした。」
戦地を渡り歩き任務をこなしていたイルカが中忍になっていた事にゲンマは驚き、そして堂々と全てを話す姿に膝を折った。
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