12

十二
待ってくれえ、と酔いの回った体を引き摺るように千鳥足で、下卑た笑い顔の男はイルカの後を追った。
角部屋の前で待つ仲間の一人が、用意は出来たと頷いて襖を開けた。
遊びの最中に手順は相談済みだ。結界は既に張ってあり、小さく入り口を開けてもらって二人が入ると閉じられる。
幻術は特訓したから、この程度の素人なら指一本触れさせずに天国を見させてやるとイルカには自信がある。
部屋の真ん中に敷かれた布団に誘い込み、胸を見せ付け男にしなだれたイルカは大きく息を吸った。さあ、術を。
男の手がイルカの胸に触れた途端に発動させた。
空気が揺れて、次第に横たわった男が一人で喘ぎ始める。空を掻きながらひくひく動く手は憐れだが、いい夢を見てるんだろうとイルカは無表情で暫く其れを見ていた。
頃合いを見計らい、耳元でゆっくり誘導する言葉を紡ぐ。問いには全て答えながらも男の恍惚の表情は続く。終いには涎を垂らし腰を振る様に、イルカは堪えきれず目を逸らした。
はあ、と息を吐き男が達した。知らない男に夢の中ででも抱かれたのだと思うと気持ちが悪く、鳥肌が立った。
しかし任務は一つ終えた。ちりんと鈴を鳴らすと襖が開いて、心配そうな顔の仲間達がイルカに次々声を掛けた。
に、と歯を見せいつもの笑いを見せたイルカに笑い返し労って、彼女らは後始末はするからと追い出した。既に日付を跨ぐ深夜だった。
イルカは自分達の控え室で着替えながら、今更震える自分に驚いた。怖い事はなかっただろうに。
頬を勢いよく叩いて寝間着の帯をきつく絞め、イルカは部屋に戻って来た仲間達と得た情報の話を始めた。そして客に怪しまれないように朝にはまた角部屋に戻った。

半月後に、一度情報を纏めて里へ報告する事になった。急を要するものならばその度に誰かが走るのだが、今回は其れも無く割合のんびり出来ている。
慎重に、スリーマンセルで情報を運ぶ。残されたのはイルカを含め二人。二日の暇を貰い、自由に過ごせる。
その同僚は何度か来ていて土地勘が有り、雑貨や甘味の店を回らないかと誘われたが、イルカは体を休めたいと断った。昼間は眠って体力を回復出来たが神経は不休で、窓の外の風にさえ目が覚めてしまうのだった。
夕飯迄には帰るから、と午前中から出掛けた同僚を布団から見送り、イルカは軽い空腹を感じながらも二度寝に入った。
窓は開け放しても、用心に簡単な結界を張っていた。更に室内に千本のトラップも掛けて、安眠を邪魔するならば殺すと脅してあるが、ぱちんと小さく破裂音がしたような気がして目が覚めた。外から結界が破られたのだ、との認識は正しかった。
瞼が持ち上がらないが、良く知っている人が自分の頭を撫でている。誰だろう。
「起きたみたいだね。会いに来たよ、子猫ちゃん。」
大好きな、低く甘い声。
え、とイルカがぱちりと音がする程勢いよく目を開けると、カカシが一緒に布団に寝転がっていた。
「カカシ先生。」
「無防備だねえ。オレみたいなのが襲っちゃうじゃない。」
言う先からイルカの寝間着を脱がし始めた。抵抗せず、されるままにイルカはカカシに組み敷かれる。
「あっ、いやぁ。」
いい声、と耳の中を舐め乳房を揉んで暑さに汗ばんだ体に手を這わせた。更に体温が上がる。
無意識に口付けに舌を絡めて返せば、カカシの動きが止まった。
「ねえ上手になったじゃない、何人くわえたの。」
イルカを見下ろす冷たい目にかぶりを振って否定したが確かめるから、とカカシは脚の間に頭を落として陰唇を指で開く。
入り口をぐるりと舐めて舌を膣の中に差し込んだ。生き物のようにぬるぬると動く舌に思わずイルカは膝を閉じようとしたが、逆に蛙のように思い切り開かれてしまった。
指を入れて他の男の痕跡を確かめるカカシの目は笑っていない。性器の匂いを嗅いでも判る訳は無いと思うが、あまりの真剣さに逆らえずシーツを握り締めて拾い出した快感に耐える。
「何で簡単に濡れるの。そんなに毎日楽しかったの?」
あからさまな嫉妬で空気を軋ませながら、カカシはイルカの膣を二本の指で乱暴に犯した。
「ふん、皆小さいから狭いまんまじゃない。」
酷い言葉だと、イルカは泣いてカカシの胸を叩いた。
「私、誰にも触らせていません。そんなの死んだ方がましです。」
感情を昂らせて泣き喚くイルカを初めて見たカカシは、宥める術を知らず困り果てた。
「私、幻術頑張って特訓したから、其れで。」
張り詰めていた緊張が切れて、イルカは声を殺さず泣き出した。
カカシ先生以外は嫌だったから。
其れは最初の計画通りで、イルカは確実にカカシに堕ちた。だがカカシも思いの外イルカに執着してしまい、任務の合間にこうして会いに来てしまった。
終われない。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。