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約束の日になった。前夜は隅々まで雑巾がけをして、触られて困る物は押し入れにしまいこんだ。といってもアカデミーの資料の類いだけだが。
カカシから時折お土産に貰った幾つかの小物は、卒業生達の物と並べて食器棚の空いた棚に並べてある。別に見られてもいいか、と悩んだ末にそのままにした。

クリスマスイブの夕方は、ケーキやチキンを売り尽くさなければ帰れないと顔に書いてあるような、若い日雇いの売り子が溢れていた。イルカは必ず買わされるから卒業生に会う危険を回避しようと、アカデミーの門を出た辺りでどの道を行けばいいか少し迷った。
「どうしました、帰るのが嫌になりましたか。」
カカシが突然目の前にいた。いや、正確には並木通りの木から降りてきた。イルカが悩む理由を言うと、カカシは口布を下ろして微笑んだ。いつからか、イルカの前では顔をさらけ出していたが理由は思い付かない。
ひと足早く、ひとつ目のクリスマスプレゼントね。とカカシはイルカの体を抱き上げ、両腕を自分の首に回せと言った。うむをも言わせない口調にイルカは戸惑いながら従うと、お互いの息がかかる程近い。思わず腕を緩めると、離すなと強い語気にまた力を籠め直した。跳んだ。
太い枝を、イルカを抱えて軽々と着地してまた次の枝に跳ぶ。並木が途絶えると、屋根に移る。瓦だろうとトタンだろうと音もたてずに、誰にも気付かれてはいないだろう。と、速度を落とし、商店街の中ほどでカカシは止まった。
「卒業生はいましたか。」
頬がカカシの吐息にくすぐったいが、離れられないままイルカはゆっくり下を見渡した。
「はい、何人か見えます。」
「今年もイルカ先生を待ってるんでしょうけど、残念ながらオレが拉致しちゃいましたからね。」
カカシは腕に抱いたイルカを離そうとしない。下ろして、なんてイルカも言わず顔をカカシに寄せて拐われました、と耳元で囁いた。
想い合うのにそこまでで。
カカシは行くよとまた跳んだ。
あっという間にイルカの部屋に着いた。カカシの腕から下ろされて寒さを感じ、どれだけこの腕を切望していたのかイルカは思い知る。
暖かな部屋は嬉しい。六畳二間の真ん中の襖を取り払い、カカシが持ってきたちゃぶ台とイルカの使っているちゃぶ台に、所狭しとクリスマスらしい食べ物が広げられていた。
そこでは帰ってきた二人にも気付かず、三人のこどもらが座る場所で喧嘩していた。
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