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回想
必然だった。出会いは偶然だったかもしれないが、俺達には当然だったと今でも思っている。

「父さん、母さんが呼んでるよ。」
報告書の提出の番を待つ間窓の外の柔らかな陽射しに見とれていたが、息子のダイチに袖を引かれて俺は我にかえった。
妻のイルカが机のむこうで俺達を迎える。お帰りなさい、と変わらない美しい笑顔で。
「カカシさん、今日の夕食はご一緒出来ますね。嬉しいです。」
「何日振りかな。夕飯の買い物はしておくから、まっすぐ帰っておいで。」
親子で任務に出るようになって数年。生まれてから母と子二人だけの時間が長かった、その時間を取り戻すかのような濃い数年。ダイチは俺から全てを吸収しようと泣きながら付いて来るし、俺もダイチを片時も離さない。
かつて、ダイチが下忍となり誰を上忍師とするかという話が出た時に、俺は他の奴にはやらせないと散々ごねて写輪眼を捨てる話まで出した。
不思議な事に、この眼は移植しても他の誰にも適合しないらしい。それを逆手に取って火影は、親子でツーマンセルは前例がないと喚くお偉方を抑えてくれた。俺も言ってはみたものの、まさか生きてこんなに早く暗部を抜けられるとは思っていなかったから、本当に嬉しかった。
「さあダイチ、帰ってお風呂に入ったら母さんのためにご飯の支度をしようか。」
うん、と大きく頷いた息子の笑顔はイルカによく似ていると俺は思うんだが、こいつも白い髪と青い目だからか俺達は瓜ふたつだとよく言われる。まあ男の子だし、似ているって言われるのは実は嬉しいんだな。これが俺の自慢の息子なんだと見せびらかしたくて、わざわざ遠回りして商店街を歩いて帰ったりして。親バカ丸出しだと火影にもイルカにも笑われるが、構わないだろう本当の事だ。

九尾の災害でイルカは上忍の両親を一度に亡くし、俺も拠り所の四代目を目の前で失い、だがそれを一人で乗り越えるには俺達はまだ幼かった。淋しさを埋めるために寄り添ったわけではないが、たとえ運命の相手だとしても出会いは早過ぎたのかと、俺の子を産んで育てていると聞いてどれだけ後悔したことか。俺が人生を狂わせ、イルカにだけ苦労を背負わせてしまったと悔やむばかりで、なのに俺を憎みもせずに償いはいらないと言う。側にいて欲しいと言う。
だから俺は誰より美しいその笑顔を守り、誰より温かいその手を離すまいと決めているのだ。
イルカの千羽鶴に込められた思いを守るためなら、俺は何でもしよう。
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