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歩み
散歩や買い物で赤ん坊を抱いて歩くイルカを、すれ違う人々は好奇の目で見詰め聞こえるように噂した。忍びの女達の鬱憤のはけ口となっては身に危険を感じる程であったが、守るべき幼子を得て、自身すらまだ幼いと言えるイルカは心身ともに鋼のように強くなっていった。
カカシにまるきり生き写しな男の子はチャクラまで父親に似ていたから、上層部の年寄りは忍びにするべく生まれたばかりの子をイルカから引き離そうとしたが、子どもは親が育てるべきだと火影は言い張って承知しなかった。
話が出た時、里のためかイルカ親子のためか思いあぐねた火影は、二人の顔を見に施設に現れた。夜中まで寝ない子をあやしに庭に出たところに忍び姿で塀から飛び降りた火影に、イルカは驚き喜んだ。施設に移るために屋敷を出て約一年、一度も会えなかったのだ。
お前ら、とそこで言葉を詰まらせた火影は、赤ん坊を抱き締めて嗚咽をごまかした。声を上げて笑う子にカカシの面影を見た火影は、漏らしてはいけないんだがな、と溜め息混じりにイルカに囁いた。
カカシは元気だ。
従者を撒いてイルカ達に会いに来て、掟を破り暗部の者の生死を教えた火影の、これまでの心の痛みはいかほどのものだったか。察しがついて、イルカの目には涙が浮かんだ。
カカシが生きていると判り、イルカは千代紙で鶴を折り始めた。まずは息子が生まれた日まで遡り今日までの分、そしてそれから毎日一羽ずつ。
色とりどりの千代紙は百羽ずつ糸を通されて壁に掛けられていく。赤系統の束、青系統の束、と並んでいく内に赤ん坊はお座りをし這って立ち上がり、初めての誕生日には年上の子ども達と走っていた。
施設にはアカデミー在籍中の忍びの卵が多かったから、分校としてそのために教師も派遣され、まだおむつの取れないカカシの子も皆と共に自然に術を覚えていった。
それで充分だと思われたが、カカシの子どもは里のために存在しなければならないと更に強さを求められ、出来なければ子どもを寄越せと強引に連れて行こうとする。
だが忍び達から大きな反対に合い、実行されなかったのはやはり火影のお陰だと、イルカは心で火影に手を合わせいつかお返しを、と誓った。
辛い事も多かったが、子どもの成長はそれにまさった。上忍の施設長でも教える事がないと、奨学金でアカデミーに通うようになったのは、三才になった春だった。しかし仁王立ちになってお母さんの側から離れたくない、と火影を睨みつける姿はカカシそのもので。
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