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生命
イルカが目覚めた時には既に日は高く、カカシは消えていた。
屋敷の中のざわめきが今日は一段と大きいのは、火影の就任式と暗部の入隊式と災害支援の始動の発表が同時にあるからだとカカシが言っていたのを、イルカはゆっくりと思い出した。
暗部の入隊式は屋敷のどこかでこっそりと、今頃行われているだろう。いつもそうだ、気が付いたら誰かいなくなってる。
イルカは起き上がった時に痛んだ下腹部を押さえ、暫く呆けていた。実感はないが、確かに愛し合ったのだと体が証明している。けれど、だから何、あの人はもういないのよ、とイルカは絶望感でいっぱいだった。
身支度を終えて、そのまま部屋も片付け始める。施設に移る話は否応なしに決定しているだろうから、と。
思った通りやがて迎えが来て、イルカは火影に別れの挨拶も出来ないまま屋敷を出た。
施設にはイルカよりも小さく、劣悪な環境におかれていた子どもらがひしめき合っていた。着いた途端に忍ベストの年配の女性に用を言い付けられ、イルカは自分の部屋を確かめる間もなく働き始めた。
下忍としての任務が雑用込みで施設の経営一切となった事が、イルカが後々アカデミー教師になる布石になったとは、この時には本人でさえ予想がつく筈もなかった。
毎日何も考えられない程忙しく、経営が軌道に乗り全ての子ども達に笑顔が戻ったのは、季節も二つ目に差し掛かっていた頃だった。
食欲が少しずつ落ち痩せて、しかしイルカは夏の暑さのせいだとだるい体を無理矢理動かしていたが、ある日お母さんと皆から慕われている上忍の施設長に呼び出された。
「妊娠してるわね。」
生理も始まったばかりで不順だったから気にしていなかった。けれど確かに、二ヶ月、ない。
いつも貴女の事を後回しにしてたのが、こんな形で返って来るとは。と抱き締められ、イルカは訳の解らない恐怖に泣き崩れた。
中絶の出来るぎりぎりの月数になっていた。イルカはこっそり友人の産科医を呼んでくれた施設長に、産みたいとはっきり告げた。たった一人の家族、多分二度と会えないカカシの忘れ形見となる子。
あたし若いおばあちゃんになっちゃうのね、何て呼ばせようかしらと施設長は豪快に笑い飛ばし、茨の道を覚悟しなさいよ、とイルカの額をこづいた。
お腹がせり出してくると隠しようがなかったが、イルカへの風当たりは意外な程なかった。皆里の復興に忙しいからかとホッとしたが、翌年の春に男の子を産むと一斉に攻撃は始まった。
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