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想い

イルカと交際を始めてから何度この夢を見たのだろう。カカシは疲労する為に眠るのではないが、と怠い身体を無理矢理起こす。
夢の中でカカシはイルカに口付けると服を脱がせ抱き合い、横たえたイルカの全身に愛撫を施していた。堪えきれずに声を漏らし、早く入ってと脚を広げるイルカの姿が生々しい。
だがそこまでだ。たぎる男根を打ち込んで欲を吐き出す事はいつも叶わない。紙媒体からの知識と想像だけでは、夢の中でさえもそれから先が思い浮かべられない。
カカシは女の身体を知らない童貞だった。
相手が玄人ばかりの素人童貞ではない、まっさらの未経験だったのだ。
幼い頃から任務に明け暮れ思春期には九尾の騒ぎが重なりそれどころではなく、そのまま任務に飛び回る日々。
暗部時代にはずみで手にしたイチャイチャシリーズは、いかがわしい場面に突入するまでは男女が知り合い愛を育む全うな小説だった。童貞のままそこに感銘を受けたカカシは、以来どっぷりと嵌まり込んでバイブルとして崇めるようにまでなってしまったのだ。
気が付けば二十代。カカシは隠されていても解る見目の良い、里を背負う看板上忍となっていたがそれまでを律し過ぎたのか性的な方面には淡白で、誰でもいいから突っ込みたいなどと遠征先で喚く奴らを冷ややかに見ていた。彼らからはそこでもくのいちが群れるカカシを羨ましがられていたが、カカシはごくたまに疼く下半身は愛する人の為にあるものだから、と一人で処理していた。精子は子孫繁栄の元だ、間違って妊娠したら相手が可哀想だろうと真剣に思う。カカシになら間違って欲しいと願う女が星の数程いる事は想定外だった。
悪い事じゃないんだけどね、とカカシの師匠四代目火影が存命だったならさぞや頭を掻き毟っただろう程に、カカシは真面目すぎた。
そして暗闇でカカシに襲われたい女達がことごとく玉砕しても、それはカカシをクールだストイックで格好いいと良い方に評価するだけで、歩くだけで群れる女の数は増えるばかりだった。
そんな日常では誰もカカシを童貞だとは思わない。カカシも聞かれないから言わない。

問題は突然目の前に。
イルカとそういった性的な匂いの漂う雰囲気に包まれる事が増えた。
イルカが誘っているのではと思う場面は愛読書の官能小説にもあったが、あっと思った次の場面は本とは違う展開なのでなんだと肩を落とす。
未経験で自信がなかったが、イルカとは大人の関係になりたいと思った。勿論結婚を前提として、いや結婚する気で。
イルカはどうなんだろう、と任務を忘れて空を見上げていると仲間は近付かない。女達と三角や四角関係で悩んでいるかと邪推すら沸く有り様だ。
それも知らず取り敢えず勉強だ、とカカシは愛読書に没頭した。

「カカシさんの大きいのが欲しいの。」
え、と固まった。
「私、大根が好きなんです。」
イルカがカカシのおでんの皿を見ている。
「ど、どうぞ。」
よこしまな思いで膨れ上がった脳内はイルカの言葉全てを誤変換する。
大根と言われればそんなにオレのは大きくない、だとか。
「最近身体が運動不足を訴えているんですよ。」
運動不足と言えばベッドの中での運動とか。
あーやばいね、とカカシは目の前の皿を凝視しながら実は何も見ていない。脳内では既にイルカを脱がしている。
「カカシさん?」
近付いたイルカから香る微かな花の香水と体臭。
酔いが回った、とカカシは胸を押さえた。
「酔いましたか、カカシさん。」
カカシの背中に手を置き顔を近付けるイルカも大分飲んでいた筈だ、目が潤んでいる。
へらっと笑い正直に言えば、近いからうちへ来ませんかと誘われた。
いやいや意味は違うだろう、イルカの親切心から出た言葉だ。きっと。
しかし酔いと共に回るふしだらな思いは、躊躇うカカシを無視してはいと言わせた。それからは腕を取られイルカの肩にそれを回されて、カカシは千鳥足で歩き出した。
頭一つとは言わないまでも、大柄な部類のカカシからすればイルカは二回りは小さい。カカシを背負うように歩くイルカは、まるで後ろから貫かれているような態勢だ。
「あ…。」
「はい?」
「何でもない、です。」
酔っていると勃起しないなんて嘘だ。
殆どイルカにおぶさるような格好では兆しを見せ始めた股間が形の良い尻の上部に当たるが、離れて一人で歩けるかというと無理だと思えた。
寺に籠った事のあるアスマに教わったお経をそらんじるが、精神統一には効果的な筈がまるで役に立たない。
「着きましたよ。」
はっと気付けばイルカのアパートの玄関の内側、気が抜けてカカシは三和土に座り込んだ。
「カカシさん、落ち着くなら部屋でね。」
イルカは再度カカシに手を貸し畳の部屋に引き入れた。
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