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三十二
初夏ではあるが薄い喪服が濡れたままでは風邪をひくと、後輩は二人をアカデミーの応接室に通した。気を利かせた者がタオルと予備の着替えを出し、イルカは更衣室に連れて行かれた。
「すみません。」
「いえ、いずれ上忍とお話ししなければいけないと思っていましたから、ちょうどいい機会です。」
重い空気。無言のままの二人にお茶を持って、着替えたイルカが現れた。
「イルカ先生がずっと貴方に片思いしていたのは、知っていました。」
イルカが頬を染めて俯き、カカシが驚いてイルカを見る。
「それでもいいと僕は思っていました。必ず振り向かせる自信があったんです。だってはたけ上忍が我々内勤なんか相手にする訳がないと、はなから思い込んでいましたからね。ところがねぇ、両思いになっちゃうんだもんなあ。」
後輩は幾分投げやりな口調で一気に言って、お茶をすすった。
「イルカ先生が俺を、俺が、俺はイルカ先生を…」
カカシのうろたえた姿を面白そうに見ながら、後輩は後を拾う。
「そう、この人を女性として好きなんでしょ。」
ええっ嘘、とイルカが口を押さえる。
「おいおい、あんたらホントに気付かなかったんですか。」
天然記念物かよ、と呆れたように溜め息を漏らして後輩はまだ濡れている頭を掻いた。
失恋の痛みも吹き飛ぶような、何て馬鹿らしくて面白い。
「上忍は自分の気持ちにいつ気が付いたんですか。もしかして、今ので…。」
問い詰められたカカシが、お茶を飲もうとした手を滑らせ辺りにこぼすのは、それを認めたようなものだった。
しばらく玩具になってもらいますからね、辛い思いをして身を引く僕をいたわって下さいよ、と苛められてイルカは困り果てた。彼は情報操作専門の特別上忍だ、と男の物言いに不審そうなカカシに説明すると。
自分はいいけどこの人の変な噂はやめてくれ、とお互い相手の事だけを思い懇願する。
ああ何て馬鹿ども、とあきれた男が即日流した噂は、カカシとイルカはこどもが出来たので結婚しました、だったそうだ。
ある者が予定日はいつだと尋ねたら、昨日が初めてなのに出来てるか判るわけない、と怒ったイルカの言葉に舌を出して笑った男は、それで溜飲を下げたらしい。

そして伝言ゲームが火影の元に届いた時には、忍び連盟よりと書かれた二人の結婚式の招待状が添えられていたとかいないとか。
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