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二十八
「たかが生徒を心配しすぎだお前、自分の子の時は寝込むぞ。」
と言われる程イルカは疲弊して、職員室でぐったりしていた。
様子を見に来たカカシもぼろぼろなイルカに、あいつらのために子離れしろと言い放った後で言い過ぎたと、震えて俯く体を優しく抱いた。
身寄りのないこの人がナルトを構い過ぎるのは当然の事だったのに。生きる支えの一つなのだろうに。
俺はその中に入れてもらえないんだろうか…って、何だ、何で俺。
カカシは唐突に沸いた思いに戸惑った。そして自分を大切にして下さいと言うのが精一杯だった。
これからは一人一人の戦いだ。まだ幼いと言える彼らだが、忍びである以上泣き言は言えないし上を目指すならば捨てなければならないものも多い。カカシはぎり、と奥歯を噛み締めて歯痒いであろうイルカを思った。

最終試験の前に合格者全員が集められた。何かと思えば、思いの外人数が多いために個人戦で本選予選を行い半数に減らす、と火影が告げたのだ。
無作為に当てられた者同士が戦うのだという。それも今から。
イルカはやはりと拳を握り目を泳がせた。いつでも予想外の事はあるのだ。自分の時には同様に人数が多く、知らない土地を不眠で鬼ごっこさせられたし、第二の試験が最終試験になった年は最初から人数が両手で足りていた、という事もある。
アカデミーに戻ると、他の教師達は今年はどこの里も若い新人が多いと興奮していた。

また見回りに行くか、と足を引きずる特別上忍はイルカを誘った。ここにいても仕方がないだろうとその目は優しかった。
とぼとぼと後ろを歩くイルカに人生の先輩はひと言泣くなよ、と言っただけで気を紛らわすためにわざと人の多い通りを歩いてくれた。もう結果は出ているだろうと思われる頃まで歩き回り、イルカは心配で余裕もなかったが歩く内に覚悟は出来ていった。
校舎の玄関先で別れる際に、イルカは黙って特別上忍に深くお辞儀をした。彼は伸びをして俺は何もしてないぞぉ、と照れを隠しながら夜勤の受付に入って行った。

壮絶だったと聞いた。重傷者が幾人か出て、ロック・リーも忍びとして使えない体になったと。結果は予想もつかないものだったが、目をそむける事の出来ない事実である。
しかしなにより抜け忍の大蛇丸が里を狙っていると公表され厳戒体制の指示が出て、ひと月後の本選迄はアカデミーの教師達も特命に従わなくてはならなくなった。
「平常通りに授業をしながら不審人物を見極めるなんてきつくねえか。」
誰かが何でこの忙しい時にだよとこぼして、お前それでも木ノ葉の忍びかよと頭をはたかれていた。

皆ぴりぴりしている―。
自分が足手まといにならないようにと気を引き締めたイルカは、知らず唇を噛んでいた。
「イルカ先生、唇噛んでますよ。ほら血が、」
と後輩が唇に触れようとした時、イルカはさっとそれをよけた。
「あ、ごめん。」
視線も外してしまった。
何が嫌だったのかは自分でも解らない。ただ触られたくなかったのだ。
何を神経質になっているのだ。他の者達に触れられても何も思わないのに。
自分を責める。彼に悪い事をしたと。だから理由をつけようと思ったが、かえって不自然な言動になりそうでやめた。
黙っていると後輩は、下忍の子達の戦いの結果を思って神経質になっているのだと勘違いしたようだ。
助かった、と目をそむけたまま安堵の息を吐く。
アカデミーの教師はあらゆる場合を想定し、生徒には自衛の方法を徹底的に教えた。教師が前線に駆り出されれば守ってやる事は出来ないと、忍びの卵は理解したかと危惧しながら。

本選出場者達は修行のためにそれぞれ師についたが、ナルトが自来也についたと聞いたイルカは、綱手の行方を聞くために酒と自慢の手料理をこっそりと持って行った。
挨拶より先に胸と尻に手を出してきた自来也をイルカは拳で殴り飛ばし、尻餅をついた自来也はからからと笑いながら抱き付いてきた。
大きくなったなぁと抱き付かれたまま言われ、その声が過ぎた長い年月を語るようで切なくなり、イルカは自来也をきつく抱き締め返した。
「おお良いわ、この感触。やはりおなごは柔らかくて気持ち良いのぉ。」
胸の谷間を貸せと言われて、それ以上の義理はありませんとイルカは自来也のみぞおちに一発決めて笑った。
綱手も近くまで来ている筈だ、と自来也はイルカの期待する返事をしたがイルカは会いたい気持ちを抑え、ではこれをお渡し下さいと酒をひと瓶自来也に預けて帰る事にした。
内密に進められているのだと解っては、もはや一介の中忍の出る幕ではない。

受付でそんな事を思い出している内に、連想ゲームのようにこども達に考えは進む。
カカシ先生、サスケの無理に付き合って困ってなきゃいいけど。
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