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トイレに座ったまま、イルカは更に記憶を辿った。覚えているのはカカシが隣に座って何か話をした、ということだけ。
このタオルと同じ匂いを嗅いでいたのよねー、うん。アタシ徹夜三日目で、凄く眠かったの我慢してたんだけど、いつ何がどうなったのか全然思い出せないじゃない。二日酔いはしてないみたいだからいいけど。記憶の最後にカカシ先生に何か言われたの、えー何だっけ、判んない。忘れちゃってよかったのかなあ…うーん、ま、いっかぁ。
カカシがイルカの隣に座ったのは、同僚に座らされたのではなく、自分から選んだことはそこで聞いていたはずだが、覚えていない。いや、気にしちゃいなかっただけなんだけど。


「オレ、イルカ先生の隣がいい。ね、そこ詰めてよ。」
女性としても小柄なイルカは、身長はカカシの肩にも届かない。背中に隠れたら全く見えない程体格が違う。いくら小さなイルカの周りが空いているように見えても、ただでさえ狭い席の間に、男の中でも大柄な方のカカシの長い脚は収まるのだろうかと思えたが、カカシを連れて来た女はその狭さを利用しようと考えていたのだ。
「はたけ上忍、もっとこちらにどうぞ。」
にこやかに誘うと座布団の半分を空けしなをつくるが、カカシは悪いからと断り暫し悩んだ。そして長い脚を邪魔そうに折り込んでイルカの身体を軽く持ち上げ、どっこいしょと脚を伸ばして持ち上げたその身体を脚の間におろしたのだ。
「これでゆっくり飲めるでしょ? イルカ先生ゴメンネー。」
イルカは眠気と戦いながらも久し振りの酒を楽しんでいたから、その経過をまるで把握出来ていない。結果を現実として認識したのはそれから数十秒後、同僚に詰め寄られてからだった。
「イルカ、狡いって!」
「あー? 何がー?」
同僚の目はもはや憎しみで満ちていたが、イルカがまるで気づかないので、目付きは更に険しくなる。
「だからぁ、アンタ自分が何処にいるか判るぅ?」
「宴会場の座敷ぃ?」
首を傾げて見渡すとカカシの顔があったので、ねっ、と同意を求める。
「あー、カカシ先生あっちに居ませんでしたか?」
カカシはどこかズレたイルカに喉の奥で笑いながらうなづいた。
「貴女のお友達に連れて来られたんですがね。」
そこで初めてイルカは気づいたらしく、同僚に顔を近づけて小声になった。
「カカシ先生、よく連れて来られたねえ。流石お色気じゃ上忍にも負けませんってか。頑張ってよねっ、あはっ。」
同僚はイルカの言葉に微妙な顔をする。ずいと正面から見据えると牽制のために、アンタは飲んでりゃいいからね、奢るからさ、と口の端だけで笑った。邪魔しないでよ。
イルカはきょとんとして、勿論とうなづいた。
「イルカ先生、乾杯しよっ?」
「アタシ一人で飲みますから、ほらこの娘の相手してやって下さいよ。」
イルカが示した女に、カカシは面倒だと思いながらも最小限の言葉で相手をしてやる。しかし脚の間に挟んだイルカの腰は軽く締め付けられていて、抜け出すなんて出来ないの、この子は解ってないんだろうねぇと。カカシは壁に寄り掛かり、卓上に肘をついて自分と距離をあけようとするイルカの綺麗なうなじを見詰めていた。
その内こっくりと舟を漕ぎ出したイルカが、我慢できず目をつむって本格的に夢の中に飛んでいく。身体が左右に揺れ卓に突っ伏す瞬間、カカシがその身体を抱き留め自分に寄り掛からせた。
「あらら、寝ちゃったよ。そんなに忙しかったのかねー。」
呆れて隣の女に聞くと、三日程家に帰らずアカデミーの予備の畳の部屋で寝起きしていたという。殆ど寝ずに、昼休みなどに着替えとシャワーに帰宅するだけだったらしい。
くたくたと人形のように心許ないイルカを横に寝かせるだけの場所もないし、寝ても踏ん付けられるだけだしと、カカシは思いきった行動に出た。
イルカの身体を反転させて自分に向け、胸を合わせる形に抱き上げると自分は胡座をかき、細く形の良い足首を右と左に大きく開きカカシの太ももに跨がらせたのだ。ズルッと落ちたイルカは、痛くないようにとベストをはだけたカカシの胸に顔を乗せる形で落ち着いた。密着した下腹部にカカシは熱を集めてしまい、幾分余裕が失われるのを慌てて取り繕って。
「駄目だ、全然起きないよ。暫く寝かしといてあげよーね。」
カカシの素早い行動に呆気に取られていた周囲が、その言葉に騒ぎ出した。
「はたけ上忍、イルカなら隅にでも寝かしておけばいいじゃないですか!」
隣の女が声をあらげて、悔しそうに責めるようにカカシに縋る。
「んー、だって隙間もないし、動くの面倒じゃない?イルカ先生軽いから別にたいしたことないよ。可愛いもんじゃない。」
カカシはイルカの髪を撫でながら目を細め、心底愛しいと思った。
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