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十四
カカシは後ろに紅が腕を組み仁王立ちしていたのに気付きおどかすなよ、と怯える振りをしながら立ち上がった。
「はたけ様、どちらへ―」
「カカシはあんたに用はないの。あたしが聞くわ。」
売られた喧嘩は買ってやる、といった顔で紅は巻き毛の女の前へ進んだ。
あたしらが出ていった方が早いか、と振り返り立てないイルカを見やる。そして紅は巻き毛の女と向こうの上忍達の間で酌をしている赤毛のくノ一隊長に近付きその腕を引いて店の外に出たが、ものの十分とたたずに戻って来た。
きょとんとした顔で三人を見るイルカの目と鼻は、見事に真っ赤だ。
「狙った男は必ず落とすとかさあ…確かにうちの隊には何人かバカがいるのは確かなんだけど。まあ今日は焦ってやり過ぎたよねえ。ああもう―」
あたしがいけないんだよね、と隊長は恐縮していた。その場で副隊長を問い詰めたら、上手くいけばカカシと仲間の上忍が釣れるだろうと思った女達が悪ノリしたと白状した。くノ一としてやっと中忍になれた部下達、彼女らは戦闘は得意ではない、かといって医療や通信や諜報に長けているわけでもなく何をしても中途半端なのだと自覚している。そのため自ら動いて任務で指名を受けられるように頼み込んでいたのだがそれがコソドロだなんだと噂が立ち、それでもなりふり構わず今日も立ち回りついでに男が食いつけばと思っていたが、こういう結果に。
ごめんねぇ、と女はイルカの泣き顔を上目づかいに見る。泣かせたい訳じゃないのに、と心底思っているようだった。
「次の任務にはおまえさん達が必要かもしれない。ちょっと面倒だが、そん時はよろしくな。」
と、全て承知している口ぶりで赤毛の女にアスマが声を掛けた。ここはこれで終わりにしろと。
目をこすり笑顔に戻ったイルカに、周囲の関係ない忍び達までほっとする。この子を泣かしちゃいけないよなあ、と言われたカカシはそうだね、と軽く頷いたが何故自分にそう言われたのか考えもしない。女に戸惑うカカシなんざ見た事がねえ、とからかわれたのに気付かなかったのである。
―皆さん優しいですし、火影様に相談したら何とかしてくれる筈ですよ。
微笑むイルカに赤毛の隊長が頭を下げる。それで済めばいいけれど、と思いながら。
「ごめんなさい、結果的に騙した事になって。」
ううんもういいの、と大きくかぶりを振れば、イルカのくくった髪の先がばしばしと顔を打つ。痛いってば、と二人笑うその様子にカカシは目を細め、うっとりとした顔になった事には本人だけ気が付かなかった。

さあ、お開きにするか。
と声が掛かりざわめきが大きくなった。まだ朝まで騒ぎたい者達が何処へ行こうかと、相談し始めたのだ。
ガイは既に前後不覚の状態で、近くの上忍達に介抱されている。悪いけどこのまま知らん顔で、とアスマはカカシに手を合わせて紅を送っていった。酔いにまかせて何をしでかすか判らない連中ばかりだからだ。
「じゃあ、私も帰ります。今日は色々ありがとうございました。」
ほんのり赤らんだ頬を押さえながら、イルカはカカシに頭を下げた。結局中忍の友人達とは殆ど話も出来ないまま、上忍の席でつがれた酒を飲み続けていたのだ。かなりの酒量だった筈だとカカシは思ったが、イルカは案外平気な様子でいる。
「イルカ先生って、意外にお酒強いんですね。俺より飲んでたような気がするんだけど。」
「はいー、実はぁ三代目に…て。くくっ―、」
イルカは唇を噛んで笑いを押さえていたが、突然あははやぁだあ、とカカシの肩や背中を叩き出した。
―笑い上戸だったのか。
イルカの笑いは止まらない。緊張がとけたせいだろうとカカシは暫くそのままにさせておきたかったが、女の子でも忍びではかなりの力がある。痛い。
叩く手をつかみ、さあ帰りましょうと一緒に立ち上がろうとしたが、酔いは脚にきていてイルカはふらついた。はずみでカカシに抱き付きながら、まだイルカは笑っている。
二人には誰も関わろうとしない。いや故意に無視しているのか、ふと目が合った一人の上忍は気の毒に、と呟いて横を向いてしまった。
え、知ってたのか? 知ってて飲ませたのか?
ひでえよなあ、と聞こえる程度の声で呟きながら、それでもカカシはイルカを背負って店を出た。何やらどっと笑う声が聞こえ覚えてろ、とカカシはそこに残っていた人数で軽く一週間は夕飯に困らない事を確認し、記憶にあるイルカの家を目指して歩き出した。

ふわっと吹いたそよ風に乗り、背中のイルカからは酒とは違う匂いがする。
シャンプーか。昔何処かで嗅いだ花の匂いだな。
額宛てが邪魔だと、イルカは眠りながらむしり取った。くくった髪はその時引っ掛かってほどけてしまったらしい。長い黒髪がカカシの頬や首をくすぐり、寝息が耳の側で聞こえる。
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