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13 月齢十二
今日もオレは暇だった。だったら下忍指導でもしろと言う奴らに聞こえない振りをして、上忍待機所に居座っていた。
一応訓練のノルマは与えたから明日はその成果を見ると言えば、先生してんじゃないかと笑われた。
イルカは今日もアカデミーと受付の両方をこなす。
今朝迎えに行った時には、昨夜の変なカンジはイルカからは拾えなかった。気のせいでは無いと思うが、どうしても判らない。しかし今朝もまた別の念を感じて、きっとこれがイルカに作用したのだとオレは結論づけた。それは安易すぎたのに、何故気付け無かったのか―。

また昨日のような事があってはならないと、受付所の前で鼠に変化して物陰に隠れることにした。
イルカの前に男が立ち、何だ今日はカカシとヤッて来なかったのかよ、と匂いを嗅ぎうなじを覗く。昨日は痕を付けたままだったって聞いたからよ、なあカカシ相手じゃ朝まで股広げてんのも大変だよなあ。まだ濡れてんだろ、舐めてオレも突っ込みてえなぁ。
オレはそこまで絶倫だった覚えは無いが、それより下品なこいつを先に黙らせるかと、変化を解いて男の後ろについた。
イルカの胸を掴もうと手を伸ばしたそいつに向かって、オレの殺気は集中した。周囲に漏れるのは勘弁してもらおう。
ゲス野郎は膝を折り、胸を押さえて倒れ込む。まだだ、まだ、気絶もさせやしない。イルカを侮辱する奴は、いやそんな対象と見ることすら許せない、とオレは頭がキリキリと痛む程の気を投げ付けた。但し写輪眼は勿体なくて使ったりなんかしないがね。
周りの者達は、オレが現れた途端に受付から離れて消えた。偉いね、学習しているねえ。
イルカは座ったまま微笑んでいる。オレだけを見詰めて、目の前の男には気付かないかのように。
オレの殺気はまだ強くなる。もう自分でも止められない。だからこの男が泡を吹こうが気が狂おうがオレは知らない。
男が全身を痙攣させてのたうち回り始めた。叫び声が断末魔となり、ひと声大きくなったと思うとふっと途絶えた。
ちぇっ、死ななかったか。まあいい、精神は使いものにならないだろうからもうイルカに付き纏わないよね。とオレは唇を噛んで笑いを抑えるが止まらない。
この騒ぎを聞き付け、警備の者達が来たようだ。オレを直ぐさま取り囲み、術の発動を抑える縄を手首に掛けた。
火影の元へ連行されるのかと思えば、地下牢ヘ入 れられるらしい。直ぐ医療班も到着しゲス野郎の手当を始めたのを横目で見ながら、オレは昔よく入った地下牢ヘと歩き出した。イルカは心配そうに眉をしかめると、殆ど聞こえないような声でオレを呼び、涙を零している。思い余ったか受付の机を回り込み、オレに縋るようにして体中で嫌々と、連れて行かないでと叫び出した。
警備が一人、イルカを押さえ付けてオレから引き剥がそうとするがイルカとて中忍、抵抗し警備を困らせている。イルカの気持ちは嬉しかったが、事を大きくすればイルカが不利になるだけだし、また余計な噂も立つだろう。
別に殺される事もないだろうし地下牢は案外快適ですよ、とイルカを宥めるように笑い、直ぐ戻りますから待ってて下さいと、オレは気休めを言った。

地下牢には天井近くに腕も通せない細長い明かり取りの窓があった。そこから見える空の色でようやく時間を知る事が出来るのだ。
する事も無く石のベッドに転がっていると、昼メシを持って警備が入って来た。昔より遥かに質がいいな、と眺めていると火影が後に続いて牢の外に立った。
イルカに事情は聞いた。やりすぎだと思うが、お前の気持ちも解る。あの男はもう使いものにはならないが、目に余る言動も多く忍者登録を取り消そうという話も出ていたからまあ構わんのだ。と一気に言われ、オレは良かったねぇととんでもない答えを返したが、火影は相変わらずだと苦り切った笑いを見せただけだった。
今回の事件に関してオレに不利にならないように処理する代わりに、一応オレを審議するという理由を付けるから今日はここに泊まりだと言われれば、世の中全部オレの味方なのかと思いたくなる。
早ければ明日、遅くとも明後日には出られるからと言われれば、別に不満も無いので承知した。ただ、イルカはと問うと、闇討ちや逆恨みなどが無い訳では無いから、オレが出るまで火影邸での保護となるそうだ。
警備と火影が出て行った静かな地下の一室で、オレは冷めた昼メシを食べた。イルカは人目に晒されないように火影邸へと移動したと云う。今日はもう会えないのかと思うと溜息も深い。明日も会えないのかもしれない。イルカがどんなに不安がっているのか、抱き締めてやりたいのに。
考え事をしている間にうたた寝をしたのか、すっかり暗くなっている。月明かりに照らされた牢内では、オレの溜息だけが存在を誇示していた。
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