12 月齢十一
あったかい、と寝ぼけた頭でオレは思った。女を抱いた時も朝まで同衾する事など一度も無かったし、遊郭では終わってしまえば人払いをして一人で眠った。こんな風に誰かと朝を迎えるなど考えた事も無かったのだ。
ずっとこのままでいたい―と、うとうとし始めた時、隣で小さく息を呑みイルカが身じろぎしたのが解り、オレは腕を伸ばしてその体を抱き直した。
お早うございます、と声を掛けると耳元で小さく答えが返った。そして息を吐くようにカカシ先生、目が、と怖ず怖ずとイルカの手が伸ばされた。柔らかく華奢な指がオレの左目の傷を辿って頬に移動すると、目に掛かる髪を除けた。
綺麗、と言ったまま見詰めるイルカに、胸が締め付けられるような慕情が湧く。まだ寝ぼけているようなその手を掴み、ゆうべの事は覚えていますかと囁くように笑い掛けると、枕に顔を埋めて首を横に振った。離れようと身をよじるがオレは腕の力を緩めない。積極的でしたよと言えば、更に離れようと両手を突っぱねて暴れる。
嘘です服を着てるでしょ、と笑って言えば、意地悪しないで下さいと真っ赤になって怒るのも可愛い。
オレの居ない間に何かありましたかと目を見て聞くと、イルカは笑顔を引っ込めて何もありませんと視線を外した。そのまま枕元の時計を見て、イルカはオレの腕を解き出勤のためベッドから起き上がった。朝の光に照らされた首筋に勢い余ってオレが吸い付いた痕が見え、ちょっとまずいかとも思ったが所有者をはっきりさせるにはいいか、と放っておく事にした。そろそろ皆にも解ってもらおう。
イルカは朝から受付で午後は夕方まで授業だというので、暇を貰っていたオレはそれまで何をしていようか。
イルカの作った朝メシを一緒に食い、オレは火影への昨日の報告の為に一緒に家を出た。
アカデミーまでの道で、こちらに向けた念を感じた。オレには害は無いがイルカには少々きつい類いのものだ。ご丁寧に呪も入っているようだし。
しかし、取り敢えず報告が先だとオレは火影の元へ向かった。任務の詳細を話し終えれば昼近くと為り、慌てて受付所の中を覗きイルカの姿を探した。ふと、今朝の視線と同じ念を中から感じた。不審に思えば中忍とおぼしき女が二人、ソファに座ってこそこそとイルカを盗み見るように話をしている。
オレは気配を断ち、姿を隠して近くまで寄った。
オレの全く知らない女達だった。イルカとは顔見知りのようだが、友人と云う訳でも無いらしい。イルカは不安そうな顔で時折こいつらを窺い、気にしているようだ。かわいそうに、こいつらどっか行っちまえばいいのに。二度と帰って来なくていいからさ。
あんまりしつこいので、オレは気配を断つ事をやめた。途端に空気が変わる。あれま、オレ殺気出しちゃったよ、まずかったね。
女達はオレに気付くと青い顔をして黙り込んだ。その腕を取って立たせ、報告書は出さないのと笑ってやれば、腰を抜かして座り込む。根性無いったらねぇ、オレのイルカに手を出すなら覚悟して来いっての。
誰も動けない中、イルカがオレを呼んで微笑む。あの方達ちょっと邪魔だったので有り難いんですがやりすぎですよ、と首を傾げて優しく言われたので、仕方なく殺気を解いてやった。
イルカを昼メシに誘い、夕方も一緒に帰る約束を取り付けた。いつも一度は断って二度目に漸く頷くイルカが今日は素直な事が引っ掛かるが、久し振りだからだろうと深く考えるのはやめた。オレの元へ堕ちて来てくれるのならどうでもいい事だ。
夕日も半分程山に沈みかけた頃、上忍待機所での昼寝から起きてイルカを迎えに職員室に行った。女の同僚達は昼間の奴らの仲間なのだろうか、同じようにイルカに向けて喚いている。首の痕がそんなに気になるのかねぇ。おや、オレが今朝イルカの家から出て来たのも知ってるなんて気持ち悪いねぇ、お前らもどっか行っちまえよ。いや面倒だから纏めてオレが殺す。
扉の外のオレはまた殺気が隠せず、カカシ先生ですねと中のイルカに名前を呼ばれた。笑ってオレに近付き、助かりますが気が強すぎて関係ない人達が困るんです、と腕を組んで怒った振りをする。
まただ、何故イルカだけがオレの殺気の中でも動けるのか、イルカだけが。いや、これもどうでもいい事だ。オレの、オレだけの可愛いイルカ。
イルカは荷物を纏めてお先に、と振り向きもせずに職員室を出た。律義なイルカにしては珍しい事を、とかえってオレの方が気にしてお辞儀をしてしまった。
帰る道すがら、オレはイルカの様子を窺っていた。やはり何かをイルカの中に感じる。術では無いようだがオレにも判らない強力な、何か。おかしい。イルカが居ればいいとは思うものの、言いようの無い不安を感じる。
肩を抱き、もう少しで満月ですねとオレは少し複雑な笑いを月に向けた。
あったかい、と寝ぼけた頭でオレは思った。女を抱いた時も朝まで同衾する事など一度も無かったし、遊郭では終わってしまえば人払いをして一人で眠った。こんな風に誰かと朝を迎えるなど考えた事も無かったのだ。
ずっとこのままでいたい―と、うとうとし始めた時、隣で小さく息を呑みイルカが身じろぎしたのが解り、オレは腕を伸ばしてその体を抱き直した。
お早うございます、と声を掛けると耳元で小さく答えが返った。そして息を吐くようにカカシ先生、目が、と怖ず怖ずとイルカの手が伸ばされた。柔らかく華奢な指がオレの左目の傷を辿って頬に移動すると、目に掛かる髪を除けた。
綺麗、と言ったまま見詰めるイルカに、胸が締め付けられるような慕情が湧く。まだ寝ぼけているようなその手を掴み、ゆうべの事は覚えていますかと囁くように笑い掛けると、枕に顔を埋めて首を横に振った。離れようと身をよじるがオレは腕の力を緩めない。積極的でしたよと言えば、更に離れようと両手を突っぱねて暴れる。
嘘です服を着てるでしょ、と笑って言えば、意地悪しないで下さいと真っ赤になって怒るのも可愛い。
オレの居ない間に何かありましたかと目を見て聞くと、イルカは笑顔を引っ込めて何もありませんと視線を外した。そのまま枕元の時計を見て、イルカはオレの腕を解き出勤のためベッドから起き上がった。朝の光に照らされた首筋に勢い余ってオレが吸い付いた痕が見え、ちょっとまずいかとも思ったが所有者をはっきりさせるにはいいか、と放っておく事にした。そろそろ皆にも解ってもらおう。
イルカは朝から受付で午後は夕方まで授業だというので、暇を貰っていたオレはそれまで何をしていようか。
イルカの作った朝メシを一緒に食い、オレは火影への昨日の報告の為に一緒に家を出た。
アカデミーまでの道で、こちらに向けた念を感じた。オレには害は無いがイルカには少々きつい類いのものだ。ご丁寧に呪も入っているようだし。
しかし、取り敢えず報告が先だとオレは火影の元へ向かった。任務の詳細を話し終えれば昼近くと為り、慌てて受付所の中を覗きイルカの姿を探した。ふと、今朝の視線と同じ念を中から感じた。不審に思えば中忍とおぼしき女が二人、ソファに座ってこそこそとイルカを盗み見るように話をしている。
オレは気配を断ち、姿を隠して近くまで寄った。
オレの全く知らない女達だった。イルカとは顔見知りのようだが、友人と云う訳でも無いらしい。イルカは不安そうな顔で時折こいつらを窺い、気にしているようだ。かわいそうに、こいつらどっか行っちまえばいいのに。二度と帰って来なくていいからさ。
あんまりしつこいので、オレは気配を断つ事をやめた。途端に空気が変わる。あれま、オレ殺気出しちゃったよ、まずかったね。
女達はオレに気付くと青い顔をして黙り込んだ。その腕を取って立たせ、報告書は出さないのと笑ってやれば、腰を抜かして座り込む。根性無いったらねぇ、オレのイルカに手を出すなら覚悟して来いっての。
誰も動けない中、イルカがオレを呼んで微笑む。あの方達ちょっと邪魔だったので有り難いんですがやりすぎですよ、と首を傾げて優しく言われたので、仕方なく殺気を解いてやった。
イルカを昼メシに誘い、夕方も一緒に帰る約束を取り付けた。いつも一度は断って二度目に漸く頷くイルカが今日は素直な事が引っ掛かるが、久し振りだからだろうと深く考えるのはやめた。オレの元へ堕ちて来てくれるのならどうでもいい事だ。
夕日も半分程山に沈みかけた頃、上忍待機所での昼寝から起きてイルカを迎えに職員室に行った。女の同僚達は昼間の奴らの仲間なのだろうか、同じようにイルカに向けて喚いている。首の痕がそんなに気になるのかねぇ。おや、オレが今朝イルカの家から出て来たのも知ってるなんて気持ち悪いねぇ、お前らもどっか行っちまえよ。いや面倒だから纏めてオレが殺す。
扉の外のオレはまた殺気が隠せず、カカシ先生ですねと中のイルカに名前を呼ばれた。笑ってオレに近付き、助かりますが気が強すぎて関係ない人達が困るんです、と腕を組んで怒った振りをする。
まただ、何故イルカだけがオレの殺気の中でも動けるのか、イルカだけが。いや、これもどうでもいい事だ。オレの、オレだけの可愛いイルカ。
イルカは荷物を纏めてお先に、と振り向きもせずに職員室を出た。律義なイルカにしては珍しい事を、とかえってオレの方が気にしてお辞儀をしてしまった。
帰る道すがら、オレはイルカの様子を窺っていた。やはり何かをイルカの中に感じる。術では無いようだがオレにも判らない強力な、何か。おかしい。イルカが居ればいいとは思うものの、言いようの無い不安を感じる。
肩を抱き、もう少しで満月ですねとオレは少し複雑な笑いを月に向けた。
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