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九日目
残すところあと二日ですね。昨日は告白できなかったとお嘆きですか。
承知しております。告白できていたらこのページを読んでいらっしゃらないでしょう。
何が問題なのか、きっとあなたにはおわかりの筈です。もう私に頼らず進む道は見えているのではないでしょうか。
それでもまだ進めない、と意気地無しで臆病なあなたへのアドバイスはただ一つです。
あなたの愛情を、損得考えず見せてください。
どうやって?
それは足元に転がっているはずです。あなたの心の示し方は無限にありますよ。


「哲学は苦手だ。」
カカシは朝から十回は読んでいるがどうしても心の示し方が解らない。
「カカシ先生、今日はまた不真面目になっちまったってばよ。」
「多分あの本が難しかったからよ。」
勉強家のサクラにもまだ恋愛は実体験が伴わないから意味不明な内容だ。
「くだらない、発情した大人は面倒だな。」
サスケに一刀両断され身も蓋もないカカシは、三人が見ている事も知らず溜め息をつく。
今日は演習場の一つを見回る任務だ。野生動物が多いアカデミーのトラップの練習場だが、最近は仕掛けたトラップが何者かに壊されるという小さな事件が数件確認されていた。まだ誰も姿を見てはいないが、足跡やトラップの破壊方法から熊かそれに近い大型の動物だと推測した。
生徒に危害が加えられては大変だとのアカデミーからの依頼は本来は教師が対応するが、慢性的な人手不足の続く彼らにやっと与えられる週一の休みを返上させる訳にもいかない。演習場は一週間以上閉鎖されており、授業にも差し支えが出つつあった。
Cの上というランクの高さでも今日は手空きの忍びが七班だけで、下忍とはいえ各自の能力は低くはないしカカシもいれば大丈夫だろう、との甘い判断がナルトをつけあがらせたけれど。
高さ五メートルはあろう鉄柵の内側に入り、ナルトの顔色が変わるのに時間は掛からなかった。
「何だよぉ、すっげえ嫌な気配がするってばよ。」
「カカシ、オレ達でそんな熊の化け物が倒せるのか。」
サスケは既に臨戦態勢だが、ナルト同様にただならぬ気配を感じて不安を漏らした。
未知の気配と二人の言葉に恐怖を感じ、サクラは無言でサスケの後ろに隠れている。
「うん…ちょっとお前らには難しいかもな。ま、取り敢えずオレが先に行ってみる。」
幾らなんでもウチの子達には無理なんじゃないの、とカカシは木の上を渡りながら奥歯を噛み締めた。
カカシにしては珍しく慎重に気の元へ向かった。動物などではない、チャクラを内に籠めた化け物だ。
片耳のインカムが雑音の中にサスケの声を拾う。
「カカ…、無断で悪いが…アカデミーに…飛ばし…を待った方が…帰れ…」
変だ、ここで無線が繋がらない筈はない。
「解った、ひと回りしたら戻る。」
聞き取れた範囲の、サスケがアカデミーに連絡をしたから戻れとの的確な判断にカカシの頬が緩んだ。
口は悪いがあいつなりに任務には真摯に向かう。そうだねイルカ先生が教職を誇りに思い、生徒を大事にする気持ちが何となく理解できるよ。
でもサツキは、と気が逸れた瞬間にカカシは勢いよく地面に叩き付けられた。
落ち葉の深い木々の間だったから、めり込むような衝撃に上手に受け身は取れなかったが痛みはさほどない。
「カカ…先生…どこで…か!」
インカムにイルカの声が聞こえた。だが返事をしている余裕はない。
立ち上がるカカシの前には、巨大な熊が前足を振り上げ仁王立ちしていた。
「あらー、今日は熊は熊でも本物がオレをお叱りですか。」
何を叱るんだろうかねえ、と笑い俊敏な動きを見せるカカシの頭は冷静だ。だから上忍なのだが。
正面で見上げたカカシの背丈から更に一メートルは上にある熊の目は濁り、あきらかに薬か術で操られていると判った。
暫く出方を伺い何度も攻撃をかわすが、熊の体力は一向に衰えない。仕方なく反撃を始めたカカシに、熊は体から血を噴き出させながらも向かってきた。
どれだけ経ったろうか。既に出血多量で倒れていてもおかしくないが、熊の動きは変わらずカカシの体すれすれに腕を出す。
カカシは少しずつ出入り口の門に近付き、サスケが呼んだ者達に加勢を頼もうとした。この一週間に三度も徹夜の任務をしており、写輪眼を使うだけの体力は残っていなかったのだ。
ちらりと知った男達の顔が見えて安心したか、一瞬ふらつく。
「カカシ先生!」
「カカシ!」
「先生危ない!」
飛び出してきた三人の部下を庇い、渾身の力を込めて雷切を熊に向けたところでカカシは力尽きた。

「カカシ先生、ありがとうございました。」
「だっ…て、イルカ先生の大事な…生徒に、怪我をさせたら、貴女泣くでしょ…。」
貴女の泣き顔は見たくなかったから。
そう言ってカカシは意識を手放した。色白の顔が更に血の気を失って目を瞑ると、イルカは堪えていた涙を盛大に溢して縋り付いた。
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