十日目
いよいよ最終日となりました。
まだ結論は出していらっしゃらないようですね。
あなたの出す結論、です。
お相手に告白して受け入れられるか振られるか、いずれにせよ今日こそ結果を残しましょう。いえ保留もありましたね、そうなりましたら今夜にでも次のページをお読みください。
さて結果が出たその後の行動については、最早私の関与するところではありません。突き放すようですが、あなたはもう臆病者ではないと私は確信しているからです。
行ってらっしゃい。
カカシは最終日の朝にこのページを読む事ができなかった。前日の捕り物でチャクラをほぼ失いそのまま入院していたからだ。
怪我は擦り傷だけだったから、治療もなくただベッドに転がっているだけ。だが体が動かなければ、枕元に畳まれた忍びベストのポケットにも手は届かない。
看護士にハウツー本を取ってくれとは、厚顔のカカシでも恥ずかしくて言える筈もない。
いいさ、もう諦めた。イルカ先生がサツキを選んだらオレは潔く身を引いちゃおーね、押せ押せなんて無理だぁよ。
目を瞑り大きな溜め息で自分の想いを吹き飛ばそうとしたカカシは、昨日熊を倒した後はころりと意識を失ったものだからイルカが自分の為に泣いた事を知らない。
下忍の部下達は上忍師の指示がなければ待機だから朝から病室に押し掛け、チャクラの回復に努めたいカカシを眠らせなかった。
「カカシ先生あの熊なぁ、実験体が逃げ出してたんだって。」
「酷いわよね、逃げたの隠して自分達だけで探してたんですって。」
「病理部はプライドだけは山より高いらしいな。」
「チャクラの実験だとか言ってたけど、言い訳ばっかりだったってば。」
「カカシ先生に迷惑掛けた事はひと言も謝らないのよ。」
「アカデミーにも謝罪なしだ。」
何故三人で代わる代わる話す。誰か一人が説明すれば一分で終わるんだけど。
カカシは瞼が下がる度に揺り起こされ朦朧としたまま、それでも律儀に生返事を返していた。
「ふぁ…いつまでお前達は…ここにいるつもりなの。」
眠い、頼むから寝かせてくれ。
カカシは限界だった。
「じゃあ、あたし達だけの修業の許可書にサインしてください。」
目の前に突き出された紙とペンに、カカシは内容を確認する事なく怠い腕でやっとペンを取り名前を書き込んだ。
「じゃあ行くってばよ。」
どたばたと嵐のように駆け出した足音が、カカシには子守唄に聞こえた。
やっと眠れる。意識が遠のく瞬間にカカシは近付く小さな足音を聞いて、サクラあたりが忘れ物かと手を伸ばした。
「何か…まだ。」
温かな手がカカシの手を握る。手の主は何も答えないが、カカシはもう口を開く事もできず眠りについた。
「カカシ先生、ありがとうございました。」
イルカが手を握ったままベッドの側のパイプ椅子に腰掛けた。
子ども達がカカシにサインをさせた紙は、イルカがカカシの世話に就く為の依頼書だった。
少ない任務代を出し合って正式な依頼書を三代目に作ってもらい、依頼者をカカシに仕立てたのだ。昨日の事でカカシの想いが痛いほど判ったから、許すも許さないもない、邪魔なんかすべきではないと話し合って決めた事だ。
勿論大人達もちょっとだけ手伝ってはいる。イルカの心が揺れているのは誰の目にも明らかだったから、自分で決めなさいと紅は背中を押した。
時間はある、ゆっくり考えればいい―とアスマもカカシの本気の重さを知ってイルカに伝えた。
そうしてイルカはここにいる。
部屋の外ではカカシの三人の部下の肩を抱きながら、サツキが中の気配を探っていた。
「イルカ先生、本当はずっとはたけ上忍の事が気になってたんだと思うよ。」
だってね、僕がはたけ上忍と就いた任務の事は些細な怪我でも聞きたがっていたんだ。
小声で話すサツキの笑顔は優しかった。
「あんた、イルカ先生の事…。」
サツキが先を言い淀んだサスケの頭をぐりぐり撫で回す。
「イルカ先生は僕にとっても君達にとっても、いいお姉ちゃん、だろ。」
頷いた三人は、それでも少し納得はしていなかったけれど。
さあ君達の面倒は誰に見てもらうんだい、とサツキに言われ中の二人の事は途端に忘れた。
「オレは髭の先生がいい。」
「あたしは紅先生が。」
「一人でできる。」
暫くは誰も入れないように中から開ければ消える簡易結界を施し、サツキは三人を追い立て歩き出した。
「もうすぐ目を覚ましたはたけ上忍が、大声でイルカ先生に求婚するだろうからね。結果は解りきっているし、聞かないであげてやろうよ。」
追記
事情があって今日までに告白できなかった、もしくは保留となったあなたへ。
お相手があなたから目を逸らさなければ、充分想いは届いています。お相手はきっとあなたの言葉と行動をを待ってらっしゃると思います。
決意は固まってらっしゃいますよね。後はどうすればいいかはお判りですよね。
そんなあなたには、もうこの本は必要ありません。
自分で道を切り開き、お相手の手を取り共に歩き出せる、立派な人だと私が保証致します。
それでもまだ躊躇うなら、私があなたの背を押して差し上げましょう。
さあ、今すぐ。
『十日間で恋人になる方法をおしえます』
著作・うみのイルカ
実はイルカが自分の事だけには疎い敏腕恋愛カウンセラーだとカカシが知ったのは、それから五日後。
いよいよ最終日となりました。
まだ結論は出していらっしゃらないようですね。
あなたの出す結論、です。
お相手に告白して受け入れられるか振られるか、いずれにせよ今日こそ結果を残しましょう。いえ保留もありましたね、そうなりましたら今夜にでも次のページをお読みください。
さて結果が出たその後の行動については、最早私の関与するところではありません。突き放すようですが、あなたはもう臆病者ではないと私は確信しているからです。
行ってらっしゃい。
カカシは最終日の朝にこのページを読む事ができなかった。前日の捕り物でチャクラをほぼ失いそのまま入院していたからだ。
怪我は擦り傷だけだったから、治療もなくただベッドに転がっているだけ。だが体が動かなければ、枕元に畳まれた忍びベストのポケットにも手は届かない。
看護士にハウツー本を取ってくれとは、厚顔のカカシでも恥ずかしくて言える筈もない。
いいさ、もう諦めた。イルカ先生がサツキを選んだらオレは潔く身を引いちゃおーね、押せ押せなんて無理だぁよ。
目を瞑り大きな溜め息で自分の想いを吹き飛ばそうとしたカカシは、昨日熊を倒した後はころりと意識を失ったものだからイルカが自分の為に泣いた事を知らない。
下忍の部下達は上忍師の指示がなければ待機だから朝から病室に押し掛け、チャクラの回復に努めたいカカシを眠らせなかった。
「カカシ先生あの熊なぁ、実験体が逃げ出してたんだって。」
「酷いわよね、逃げたの隠して自分達だけで探してたんですって。」
「病理部はプライドだけは山より高いらしいな。」
「チャクラの実験だとか言ってたけど、言い訳ばっかりだったってば。」
「カカシ先生に迷惑掛けた事はひと言も謝らないのよ。」
「アカデミーにも謝罪なしだ。」
何故三人で代わる代わる話す。誰か一人が説明すれば一分で終わるんだけど。
カカシは瞼が下がる度に揺り起こされ朦朧としたまま、それでも律儀に生返事を返していた。
「ふぁ…いつまでお前達は…ここにいるつもりなの。」
眠い、頼むから寝かせてくれ。
カカシは限界だった。
「じゃあ、あたし達だけの修業の許可書にサインしてください。」
目の前に突き出された紙とペンに、カカシは内容を確認する事なく怠い腕でやっとペンを取り名前を書き込んだ。
「じゃあ行くってばよ。」
どたばたと嵐のように駆け出した足音が、カカシには子守唄に聞こえた。
やっと眠れる。意識が遠のく瞬間にカカシは近付く小さな足音を聞いて、サクラあたりが忘れ物かと手を伸ばした。
「何か…まだ。」
温かな手がカカシの手を握る。手の主は何も答えないが、カカシはもう口を開く事もできず眠りについた。
「カカシ先生、ありがとうございました。」
イルカが手を握ったままベッドの側のパイプ椅子に腰掛けた。
子ども達がカカシにサインをさせた紙は、イルカがカカシの世話に就く為の依頼書だった。
少ない任務代を出し合って正式な依頼書を三代目に作ってもらい、依頼者をカカシに仕立てたのだ。昨日の事でカカシの想いが痛いほど判ったから、許すも許さないもない、邪魔なんかすべきではないと話し合って決めた事だ。
勿論大人達もちょっとだけ手伝ってはいる。イルカの心が揺れているのは誰の目にも明らかだったから、自分で決めなさいと紅は背中を押した。
時間はある、ゆっくり考えればいい―とアスマもカカシの本気の重さを知ってイルカに伝えた。
そうしてイルカはここにいる。
部屋の外ではカカシの三人の部下の肩を抱きながら、サツキが中の気配を探っていた。
「イルカ先生、本当はずっとはたけ上忍の事が気になってたんだと思うよ。」
だってね、僕がはたけ上忍と就いた任務の事は些細な怪我でも聞きたがっていたんだ。
小声で話すサツキの笑顔は優しかった。
「あんた、イルカ先生の事…。」
サツキが先を言い淀んだサスケの頭をぐりぐり撫で回す。
「イルカ先生は僕にとっても君達にとっても、いいお姉ちゃん、だろ。」
頷いた三人は、それでも少し納得はしていなかったけれど。
さあ君達の面倒は誰に見てもらうんだい、とサツキに言われ中の二人の事は途端に忘れた。
「オレは髭の先生がいい。」
「あたしは紅先生が。」
「一人でできる。」
暫くは誰も入れないように中から開ければ消える簡易結界を施し、サツキは三人を追い立て歩き出した。
「もうすぐ目を覚ましたはたけ上忍が、大声でイルカ先生に求婚するだろうからね。結果は解りきっているし、聞かないであげてやろうよ。」
追記
事情があって今日までに告白できなかった、もしくは保留となったあなたへ。
お相手があなたから目を逸らさなければ、充分想いは届いています。お相手はきっとあなたの言葉と行動をを待ってらっしゃると思います。
決意は固まってらっしゃいますよね。後はどうすればいいかはお判りですよね。
そんなあなたには、もうこの本は必要ありません。
自分で道を切り開き、お相手の手を取り共に歩き出せる、立派な人だと私が保証致します。
それでもまだ躊躇うなら、私があなたの背を押して差し上げましょう。
さあ、今すぐ。
『十日間で恋人になる方法をおしえます』
著作・うみのイルカ
実はイルカが自分の事だけには疎い敏腕恋愛カウンセラーだとカカシが知ったのは、それから五日後。
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