「…を、…んて。」
また俯いたイルカのあまりにも小さな声が震える。カカシは片方ずつ取った手を重ねて、上下から包み込んだ。
「鍵を捨てるなんて、馬鹿ですか。」
上目遣いのイルカに見えてましたか、とカカシは笑った。
「だから、俺は一人では帰れないんですって。」
もしアタシが里にいなかったら、と言われてカカシはじゃあ貴女の部屋の鍵をください、と大きな博打に出た。
イルカは窓に歩み寄り、ためらいもせず開け放たれた空間へ何かを投げた。それは日の光に鋭く反射しながら、川に消えてしまった。
「うちの鍵全てです。だから、カカシ先生だけでなくアタシもうちに入れません。」
ここに帰りたかったら、アタシを探すんです。地の果てまでも。
窓辺で腕を組み、真っ赤な顔で睨むイルカにカカシは見惚れた。
「アタシも貴方が好きです。異性として愛して、守られるのは時々でいいから、できれば閉じ込めるのは気持ちだけにして、結婚したくて、貴方のこどもを五人位産ませて欲しくて、一緒に年をとりたくて、アタシに死に水を取らせて欲しい。」
言った。と先程のカカシの言葉に返し、どや顔で。
相変わらず男前だねえ、といつも通りのイルカに戻ったのがカカシにはなにより嬉しい。
弱ったイルカにつけこんだと言われたら反論できなかったからだ。
でね、とカカシは真剣な目で、でも口元は嬉しさを隠せない。
そんなに俺の所在と生死が心配ならね、と殆ど食器のない食器棚の引き出しから、手のひらサイズの巻物を二本取り出して、一本をイルカに渡した。
「作ってみたんですが、やたらと渡せないんで捨てるつもりでした。」
開いても真っ白で。イルカは人差し指をつつかれ血で四隅に署名し、言われるまま一面にチャクラを流し終えてからこれは何ですか、と聞いた。
カカシの現在地が点で表示されるのだという。イルカが手のひらのチャクラを紙に流すと、赤く光る点と里の地形図が浮かび上がった。
飛び絵描きのサイに助言をもらって作ったというだけあって、実用的だった。
だがカカシが持つ対の巻物に対応すると言うのは。
「これは口寄せになります。俺を呼んでください。」
カカシが瀕死になれば点は青くなる。死んでしまえば黒くなる。
戦闘の真ん中に来る気はありますか、と決意が試されているのだ。
当然だと、イルカはカカシの目を見て頷いた。何がなんでも助けてやる。アタシを誰だと思っているの。
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