呂律も回らず酷い泣き顔でカカシ先生死んじゃう、と繰り返すイルカ先生には取りつく島もない。訳の解らないまま、誰も付いていたかさえ記憶があやふやだった小さなトンボ玉を一緒に探した。ひと騒動の末見つかると、大事そうに握り締めて生きてる帰ってくるとまた泣いていたのだと教えてくれた。
厳しい戦況でもイルカ先生の変わらず落ち着いた様子に、皆は頼っていた。誰にも心の中が見えなかった。仕方のない事だ、誰も悪くない。
その後も落ち着いてはいたが、凡ミスが増えて綱手様も困り始めたところだったらしい。
「はたけ上忍の話は一切しませんでした。」
言えば箍が外れてしまうのでしょうね、実際こんなになりましたし。と一人が耳打ちしてくる。
俺はもうどうしようもなくこの人が愛しい。
俺を思う気持ちはただの同情かもしれないし、仲間に対する親愛かもしれない。ならばそれを変えて見せよう。
この人を手に入れて、揺るぎない愛で包んであげよう。俺は決して死なない、諦めるなんてしない。必ずイルカ先生の腕に帰らなくては。
「守りますよ、何があっても。」
それは決意だ。
俺はイルカ先生の手を取って歩き出した。何故か拍手が起こる。
イルカって、自分の気持ちに気がついてないみたいなんです。心配いりませんよ。
と女性達が笑って後押ししてくれた。ホント?

「またあの居酒屋に行こうか。ランチあるから。」
と言えば素直について来てくれる。
俺の言葉に、笑顔が戻ってきた。里にいる間はずっと一緒にいられると解ると喜び、でもまた行くんですよね、と切なそうに眉を寄せた。
うん、そうなんだけど。どうしたら安心してくれるだろう。
俺も解らないままイルカ先生を部屋に誘う。
「鍵は持ってる?」
はいと見せてくれたそれは、イルカ先生が磨いてくれたらしく新品同様だった。
「俺のはどこかに落としたみたいだから、イルカ先生がいないと入れないんだ。」
勿論嘘だ、今日一度戻っているのだから。鍵なんか簡単に壊せるし。
でも嘘を本当にするために、この鍵は捨ててしまおうと、俺は換気のふりをして窓から鍵を少し先の川に投げ捨てた。
だからね、俺は貴女なしにはいられないの。解ってくれる?
それからこれね、実はお揃いで。握った手を開いてイルカ先生の髪に付いているトンボ玉と、色さえ同じ物を見せた。
無事に帰ってこられたのも、イルカ先生の願掛けが効いたからだと思ってる。
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