「連絡しなくてすみません。」
俺、何を言ってるんだか。
一緒に座り込んだまま空を見上げれば、青い空には雲一つなく。
死ぬんだったらやっぱり里で、イルカ先生の腕の中で、と不謹慎にも俺は思った。
まあぼろぼろのイルカ先生のその日の授業は当然全て流れ、騒動を耳にした綱手様には呆れられたね。
でもイルカ先生が徐々に不安定になって書類整理も任せられないし、何より戦略部の奈良シカクさんとの連携が取れず困っていたのだと綱手様は愚痴をこぼした。
あーそんな凄い事してたんですか、やっぱり生徒達が心配なんですねー、綱手様にも皺寄せ来てるみたいだし、と俺はさっき報告した時には気付かなかった、綱手様のちょっと窪んだ目元を見ていた。
そうか、イルカ先生も目が大きくなってたのは痩せたからなのかねぇ。
「任せた。」
何を?
「連れて行け。」
どこに?
「出立は延ばしてやる。いずれにしろ練り直しになるからな。」
ありがとうございます。流石に休みたかったんです。
「但し、すぐ手は出すなよ。合意の元にな。」
それ何ですかあぁ、と俺は目を剥いた。突き付けられた紙はイルカ先生の休暇届、って命令。
落ち着け、と肩に手を置かれたが俺には何も解らない。綱手様の笑顔が恐い事だけは解るんだが。

職員室に寄って行けと言われたが、何があるのか…あ、イルカ先生忘れてた。俺疲れてんだな、と改めて思えば腹も鳴った。
「イルカ先生を引き取りに来ました。」
いつだったかのようにざわめきが起こる。今回は俺が原因なので、職員は迷惑だったろう、手土産が必要かも。
イルカ先生の上司らしき年配の男が俺に歩み寄る。綱手様からの休暇届を渡し、自分の席で呆けるイルカ先生の顔を覗き込むと俺の首にいきなり腕を回してきた。一瞬役得だと思ったが、彼女に笑顔はない。
そこまで心配されるなんて生徒達が羨ましい、と誰にともなく呟けば、皆が怪訝な顔で俺を見た。何か悪い事言ったかな、とちょっと困ったら。
「イルカの髪紐のトンボ玉ですよ。」
とよくイルカ先生と受付にいる若造が答えた。
内勤の職員で里の中を守るための布陣が敷かれる事になった。アカデミー優先だから、模擬訓練は主に夜間になる。ある夜演習場で、何かに引っ掛かり髪紐がほどけ落ちたらしい。満月が雲に隠れてしまい、その場がよりによって大人も埋もれる草むらで、それでも探すと言い張り皆で止めたら泣き出した。
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