留守番ですか、と俺の横でサクラが綱手様に不満そうに呟いた。七班としての戦闘任務でひと月里を離れていたのだが、帰還そうそう次は置いていけと言われたからだ。
「サクラは綱手様の一番弟子だもの、そっちが優先でしょ。」
えへ、一番弟子だって、と嬉しそうなこの子も、凄まじい体験を乗り越えて一人前の医療忍者になった。特殊な才能のサイもそうだが、ナルトは予想以上に成長し続ける。
俺はそろそろ用済みになるかな。左目が使えなくなるのも遠い先ではなさそうだし。
綱手様は俺の不安を見透かすように、この目がなくても俺を忍びとして手放す気はないと言ってくれた。俺の居場所は木ノ葉の里だけなのだ。
では、と俺は未練を断ち切りまた里を離れる準備のために部屋に戻った。
イルカ先生に鍵を渡してから何ヶ月たつか。俺のいなかったひと月の間に、あの人がここに来た気配はない。当たり前か、ただ持っていてと言っただけだし。
寒い、と思ったのはイルカ先生の温かさを忘れてしまったからか。
ずっとお揃いのトンボ玉が支えだった。何度も死線をさ迷い諦めそうになったのを、この世にとどめてくれたのはイルカ先生だ。
会いたい。
そう思ったら我慢できなかった。

校庭で授業中だった。小さなこども達と、本気で陣取り合戦なんかしている。俺は笑い方を忘れていたのか、頬が強張っていた。けれど体中に回る温かさは、イルカ先生のお陰だ。
「捕まえた。」
ああ、まずいね授業中なのに。イルカ先生のげんこつが待ってる。
正面から抱き締めてしまい、怒られるのを待っていたが何も起こらない。そっと顔を上げると、イルカ先生は目を見開いたまま大粒の涙をこぼしていた。
俺は手甲を外して頬の涙を拭った。イルカ先生は瞼を閉じて、するとまた涙が流れ落ちる。
俺は拭くものを探したが、取り出した手拭いは土で汚れていた。それを見た女の子が自分のハンカチを差し出してくれ、俺は感謝して受け取った。
イルカ先生は地べたに座り込んで泣き続ける。別の女の子が先生ね、毎日ずうっと待ってたんだよ、と教えてくれた。
生徒に何を言ってたんだかちょっと怖いけど、誰にでもすがりたい気持ちは解るから、俺はここにいるよ、とただ抱き締めるだけだった。
教え子達が敵と味方で殺し合う、最悪の結末が容易に想像できる状況の今、自分は忍びだからと心をしまい込み、日々もたらされる情報を淡々と処理していただろう。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。