森の外れで朝焼けを見たカカシは、日の出までの任務だから終わりだ、と気を抜いた。外からの侵入が疑われた不審者発見の通報は、結果として徒労に終わりそうだ。交替の到着で引き継ぎをし、一刻も早く眠りたいと家路を急いだ。
イルカはまだいるのだろうか。夜中に起きて帰ったのだろうか。テーブルに合鍵だけ置いてきたが、どう判断しただろう。
知りたくて知りたくなくて、まるで少し前のサクラのような思考にカカシは速足で歩きながら笑った。あの子は恋する乙女だった。
…まさかね。俺はただ守りたいだけだ。なら何故守りたい。
イルカなら心理学を勉強したから判るかもしれない。聞いてみようか、でも本人に聞けないじゃない、と自分に突っ込んでぐるぐる回る。
どこにでもあるシンプルなマンションを見上げる。窓辺の常夜灯を点けてきたが、今その部屋は暗い。
やっぱり帰ったよね、と呟いて部屋に入れば甘いひと気がほんのり残っていた。テーブルに合鍵はなく、代わりに一枚の紙があった。ノートを破ったのだろう、罫線が引いてあるが無視して斜めに書かれた文字は殴り書きに近い。
『お疲れ様です。鍵は掛けておきますが、入れておく郵便受けもないのでとりあえず持っていきます。ありがとうございました。』
慌てようが見て取れる、その紙切れをカカシは丁寧に小さく折り畳むと、ベストの内側にしまいこんだ。
今日はまだ任務の要請がないので待機だ。あれだけ煩わしかった筈の上忍師でないのが、今は正直寂しい。カカシはシャワーを浴び、上忍待機所で居眠りをしようと外に出た。

いる筈のイルカがいない。聞いて回るわけにもいかず、カカシは待機所でころころうろうろと、羽虫よりもうっとおしいと仲間達に邪険にされていた。
ひょいと顔を覗かせたイルカが、たまたま背を向けて座るカカシを見付けて、にやりと悪戯っ子の顔になった。イルカに気付いた者達に、しいっと口に人差し指を立てる仕草で黙らせると、完全に気配を絶ってカカシに近付いた。
「どこに行っちゃったんだろ。」
誰に聞かせるわけでもない小さな独り言。
「誰がですか?」
耳元に落としながら、後ろ手に殴られないように素早くしゃがみ、カカシの腰に手を回した。
イルカの突然の行動に驚いて立ち上がろうとしたが、すかさず力を籠めて腰にしがみつくイルカに動けずカカシの手足はじたばたと、ひっくり返った蝉のようだ。
どっと笑いがおこった。
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