目が綺麗だ、と思った。しかしその目に涙が浮かび、ぽろりと零れたら止まらなくなっていた。しゃくり出すと苦しそうに眉をしかめ、唇を噛んで嗚咽をこらえる。
俺は慌てて店主にすぐ奥の座敷を借りた。宴会用の部屋にはまだ誰もいないから、店主も酔っぱらいはしょうがねえなあと笑ってくれ、イルカ先生の手を引き移動した。
泣きなさいと背中を叩いたが、まだイルカ先生は唇を噛んでいる。抱き込んであやすように更に背を叩いて、漸く振り絞る泣き声は、それでも俺に遠慮していた。
「サスケがね、ナルトがね、皆がね、」
途切れ途切れに吐露する心中は、どれだけ我慢していたのだろうか、血を吐くように俺は思えてきつく抱き締めるしかできない。目の奥が痛む。俺も泣きたかったのだ。心がみしりと、折れそうにたわんでいたのだと気付く。
辛いとか悲しいとか、言葉にする事はできたが泣いてはいけない状況だった。きっと三代目の葬儀の頃からずっと、笑っている事を求められたのだろう。イルカ先生はアカデミーの先生で、受付の要で、五代目の秘書で、朝イチの受付要員で、暁の諜報隊の隊長で、まだまだ出てくるじゃないか大事な仕事が。
考えたら俺も耐えられなくて、イルカ先生の首筋に顔を埋めて涙を流した。だが彼女が代わりに泣いてくれたからか俺の涙は一粒で終わってしまい、長く淀んでいた気持ちは不思議と晴れていた。
イルカ先生も、泣いて少しは落ち着いたらしい。ただ俺の胸から顔を上げない。ほつれた髪を撫でていれば、掠れた声で泣きすぎて頭が痛いと訴える。顔も酷いだろうから見ないでくれと、手で顔を覆って丸くなる。
気にしないでと言いながら俺は声を出さずに笑った。振動が伝わり、イルカ先生は俯いたまま酷いです、と俺を叩く。これならもう大丈夫だろうと、厨房の店主に多めに代金を渡して勝手口から出してもらった。
冷たい夜気に、二人共すっかり酔いが醒めていたのが判り、肩の力も抜けた。だがイルカ先生は顔を上げない。
「俺の部屋でお茶飲みますか。頭痛薬あげますよ。」
このまま帰せないと思ったら、言葉が先に出た。よく通った居酒屋とはつまり近所だから、と説明を加えて俺は手を引きゆっくりと歩く。小さな手からは手甲伝いでも冷たさが伝わった。

イルカ先生は結局うちでお茶を飲んだら寝ちゃったし、どうしようと思う間もなく俺は不審者が出たと呼び出されて朝まで見回りだったし。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。