つ、とイルカ先生が俺に詰め寄った。
「アタシの推測ですけど、チャクラの回復が徐々に遅くなっていて、左目の視力の低下と、脳への負担から来る頭痛も比例して酷くなっているのではないかと見ました。」
看護師の真似事もさせられてるんで気になったのですが、とイルカ先生は俺の気持ちを読むように覗き込み、言い当てられた事による動揺を抑えて、俺は目を伏せる。
「どうでしょう、気にしてませんでした。」
なあに心配する程じゃありませんよ、と俺はわざとらしくあくびをしてみせた。
イルカ先生は俺が何も話す気はないと理解したらしく、俺の頭を撫でながら声には出さずごめんなさいと唇を動かした。
頭を撫でられるのは案外気持ちいいものだ。本当は恥ずかしいし、人に触れられるのは忍びの習性として嫌なんだが、今の俺はまだ体が怠いせいもありイルカ先生の手をはね除ける気もない。いや、イルカ先生だから触れられても大丈夫なんだろう。
何だか本当に眠くなってきた。もう少し起きていたいのに、イルカ先生と話していたいのに、意識が薄れていく。
そして俺が目覚めた時、辺りは夕日に赤く染まっていた。
個室にたった一人は寂しい。イルカ先生が座っていたパイプ椅子は畳まれずにベッドの脇に置いたまま。それを見たら余計に寂しさが募って、俺の目の奥が熱く痛み始めた。おいおい、泣くのなんか何年ぶりだ。
声は出なかったが涙はぽろぽろと零れ、俺は渇れるまでそのままに泣き続けた。落ち着いた頃には夕日も沈みきって夜になっていた。廊下の明かりがドアのすりガラスを通して微かに部屋を照らす。
お夕飯です、と声が聞こえて部屋も明るく照らされ食事がテーブルに置かれた。腕は動くが何だか面倒で、自分で食べられるからと言って放っておいたら廊下が何だか騒がしい。
「カカシ先生、生きてるかってばよ。」
「馬鹿、起きてるかでしょ、縁起でもない。」
「ウスラトンカチ。」
嵐だ。個室で良かった。
俺の感傷は見事に台風に吹き飛ばされた。まあ沈んだ気持ちの浮上にはちょうどいい騒がしさなんだろうな。ナルトに食事の世話をされるなんて思ってもみなかったし、サスケが花瓶の水を取り換えるのも二度と見られないんじゃないか。
サクラがそれらを取り仕切るのは当たり前の光景なんだが、うん、三人の纏まりは良くなっている。
「これなら中忍試験も大丈夫じゃないか。」
あ、言ってしまった。
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