「ちょっと、ちょっと待って。」
何を待てと、とイルカの顔に書いてあった。
「何でイルカ先生がいるんですか。」
だって。イルカは溜め息と肩を盛大に落とした。
どこで倒れたか思い出してください。
少し怒ったようなイルカの声に、カカシは目をさ迷わせ思い出そうとした。数秒ののち布団を頭まで被って、すみませんでしたと普段の冷静な上忍師ぶりはどこへやら。
カカシ先生よだれ垂らしててねー、と囁いてみれば今度はがばりと勢いよく布団から顔を出した。
「嘘です、ちゃんと顔は隠れてましたから。」
治療もなくただ寝ているだけなのだから額宛ても口布も取っていなかったが、カカシは自分の顔を触って確かめ安心する。
「よだれは恥ずかしいですが、イルカ先生には顔を見せてもいいんですよ。見て。」
と言いながら、おもむろにカカシは額宛てを取り口布を下ろした。
写輪眼だけは見ない方がいいです。と器用に左目をつむって、右目だけでイルカを見詰めてくる。
「ナルトが俺はタラコ唇じゃないかって言ってるのあんまりだから、違うってイルカ先生の証言が欲しいですね。」
そんな事言われたら唇に目が行ってしまう。タラコどころか薄く綺麗な形だ。薄桃色のリップグロスが似合いそう、などと予想もしない展開にイルカの思考はとんでもない方向に逃避していた。
ちょっと垂れ目で庇護欲をそそる、いたずらっ子系のいい男だと噂が流れていた。だろうなぁとは口布の上からも伺えたが、実際は想像の十割増し、つまりイルカの好みの直球ど真ん中だった。
といっても知らず知らず父親の面影を求めていただけで、観賞するのみに留まりカカシも例外なくお花が綺麗ですね、の枠から出ない。イルカが現実に男に要求するのは色々な意味での力だけだ。顔が何の役に立つ、と言い放つ。
おもむろにイルカはカカシの跳ね上がる髪を撫で付け額を丸出しにし、そこをぺしっと叩いた。一連の流れについて行かれなかったカカシは、しばし動けずイルカを見詰めたままだ。
「すみません、アタシおでこ好きなんです。」
もぉうずうずしちゃってえ。言われてカカシは狼狽えた。またもや意外な行動を取るイルカに、鉄の心臓が戦闘任務時以上に速く打っている。
あ、今なら俺殺せる。とカカシは唐突に思った。イルカ先生なら殺されてもいいかなあ、と深く考えずに口に出してまたおでこを叩かれ笑われた。
そして笑顔が消えて。
左目が、と。
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