そんな…。
沈黙。そして沈黙。
アタシは唇を噛んでそれ以上言うまいと自分を抑えた。カカシ先生の言葉は全て正しいし、彼が決して自分の損得勘定で動いている訳ではない事は解っている。
だけど、アタシは言わずにいられなかったのだ。あの子達が中忍試験を受けるなんて、まさか、アカデミーを卒業した、今年。
三代目に諭されて、アタシは落ち着け落ち着けと呼吸を整えながら受付に向けて歩く。
上忍の一団が、途中までは受付と待機所が同じ方向の為アタシの後ろを歩いているから余計に困る。カカシ先生のかすかな足音が一番大きく響く気がするのは、アタシにやましいと思う気持ちがあるからだ。
上忍師に楯突いた事、自分が否定された事、そしてこれから予想される色々面倒な結果、を瞬時に思い巡らせ脱力しながらも少し早足で歩を進める。が。
「よう、イルカ。」
肩を叩かれアタシはびくりと跳ね上がった。アスマ先生のまるで隠さない気配にも気付かなかったとは。
でもアタシは、横を歩くアスマ先生の懐かしい煙草の匂いにほっとしていた。
「気にすんな、こんなのたいしたこっちゃねえ。お前らしくていいじゃねえか。」
アスマ先生は昔のようにアタシの頭を撫で付けて、いやぐちゃぐちゃに撫で回して髪を逆立てる。あのねー。
アタシの髪型はただのポニーテールなのだけれど、なんせ太い多い硬いと三拍子揃っているから毎朝纏めるだけでお湯を沸かしてカップ麺が出来上がる位の時間が掛かる。なら首の後ろで纏めれば楽ではないかと言われるが、動くと汗をかいて張り付き邪魔なのだ。
ああもおぉ、と髪をほどいてアタシは頭を振った。アスマ先生の顔に毛先をわざと叩きつける。
ほら、広がって収拾つかなくなったでしょ。刈り上げない限りどうしようもないんですよー。
じゃあ待機所に寄ってけや、俺が直してやる、とアスマ先生はアタシの腕を引いて部屋の中に誘導した。
流石です。アタシの為にカカシ先生と話をさせてくれるんですね。
遺恨は残さない。ここでの上手な付き合い方の基本だってのを忘れていたね。忍びって血の気が多いから大変な事になったりするし。いや、今回のアタシはカカシ先生に何もしないけど、出来る訳もないけど、ギクシャクするのも嫌だしね。
ありがとう、アスマ兄ちゃん。
アタシはカカシ先生に無礼を詫びたが、彼は欠片も気にしていなかった。うん、眠れない夜を過ごさずにすむのは嬉しい。
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