しまった、とイルカは目を泳がせた。話すつもりはなかったのに、この流れは何。
こんな話を聞かせてすみません。と立ち上がり、動揺を抑え慌てて野菜を切り始めた。
「カカシ先生の方がもっと辛かったでしょうし。」
あ、もっとマズイ。
小気味良い包丁のリズムが止まる。
何となく聞いてはいるよね。とカカシの口調は穏やかだ。
「イルカ先生が話してくれたから、俺もきちんと話しましょうか。」
カカシはさりげなく流し台にイルカと並んで立った。何かお手伝いは、と言うものの、古いアパートの小さな流し台にカカシは邪魔なだけだった。
ではこれを、とイルカはカカシを傍らの食卓に座らせて、絹さやの筋取りを頼んだ。
カカシの話は淡々と進む。
気が付けば父しかいない家庭で、気が付けば忍びになっていた。
カカシが生まれながらに持つ尋常ではないチャクラの質に、父親は同じ道を辿る運命を憂えていたらしい。だが、ならば徹底的に仕込んでしまえ、とカカシが歩き始めて会話が成立するようになると、小脇に抱えてよく高難度の任務に連れて行ったと後で父から聞かされたが、必ず無傷で帰還できたのは白い牙と呼ばれた父親の、圧倒的な強さによるものだと知ったのはつい最近だった。父の最期についてはずっと否定的な話しか耳に入らなかったから。
でね、俺は小さい頃から慣れている筈だったのに、血まみれで横たわる父親の姿はやっぱり任務で見る無数の死体とは意味が違うんだなぁ、とその時思いましたよ。
さらりと言ってしかし、溜め息の後言い淀んだカカシに胸が痛み、イルカは頷く事しかできなかった。
精神的な揺り返しが後から来ましたね。
絹さやの筋取りが終わり、カカシは軽く伸びをする。
自分からは言ったことのない話だと前置きして、オビトの写輪眼を移植した時も何とか乗り越えられたし、暗部でもためらうことなく幾らでも殺せたんですけどね、と一気に言うと。
いきなり倒れて寝付きまして、とカカシは力なく笑った。
え、とイルカは目を見張ってまた包丁の手を止めた。言葉が出ない。
「正確には眠れず動けず食べられず、というところだったんですが。」
もう七年八年たちますか。
人格破壊の寸前だと、たまたま近くの賭場にいた綱手を捕まえて看てもらって怒られて、三代目は笠とキセルを犠牲にしたそうな。
「俺だから耐えられたけど並の忍びならとっくに死んでる、と綱手様は仰いました。」
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