さてと、この食材は全部使わなきゃね。
「カカシ先生、食べきれなかったらお持ち帰りをお願いします。」
取り敢えず全て加熱しておきますから、三日は冷蔵保存がききますよ。と流し台に食材を並べながら、イルカは台所できょろきょろと辺りを珍しそうに見渡すカカシを手招きした。
これ、もう冷えないから買い替えたいんですよ。
イルカはちょっとふて腐れて、傍らのかなり古い冷蔵庫の扉を開けて見せた。
あ、ほんとだ。冷えない冷蔵庫なんか初めて見た、とカカシは呟いた。
十年以上前に譲り受けた中古って、その頃から独り暮らしなら、イルカ先生もあの災害孤児なのか…。
里の崩壊後、肉親の所在が不明だったり死亡が確定した子どもはとりあえず一斉に保護施設に収容された。暴れる九尾に向かっていった忍びの両親は帰らず、家もなくしたイルカも例外ではなかった。
しかし、やがて里の復興が進み子ども達も親戚に引き取られたりと落ち着いてくると施設は縮小され、身寄りのないイルカは焦り、眠れない程悩んだ。結果、一人で生活できると言って施設を飛び出し、つてのつてのまた先のつてで取り壊し寸前のアパートを壊すまでの間、と期限付きでただで借りた。
とにかく生きることが先だと、イルカは農作業の手伝いや工事現場の下働きなど、それこそ何でもした。だがまだ里も貧しく、ましてや一人前の仕事もできない子どもでは、朝から晩まで一日中働いても日給は精々三日分の食費で消えてしまう。
失った多数の忍びを補い育てる為にいち早く再開したアカデミーには施設にいる頃から通っていたが、働くためにイルカは次第に休みがちになっていった。
実は施設に収容された際に、両親が直属だった縁で三代目が引き取ると申し出てくれたのだが、イルカは不眠不休で飛び回る三代目の迷惑になっては、と断っていた。
だが、働きすぎと栄養不足で体を壊して廃墟寸前のアパートに一人きりで動けない状態でいたイルカは、一週間以上アカデミーを欠席して不審に思った教師に発見されたのだ。
大人になったら里に返してくれればいいと三代目に諭され、イルカは学業と修業に励んだ。そしてアカデミーを卒業すると、子どもを育てる教師の道を選んだのだ。
「猿飛家は居心地が良すぎて辛くて、結局すぐ一人暮らしになりました。」
懐かしそうにゆっくりと冷蔵庫を撫でたイルカの背中が一人は嫌だ、でも一人でいたい、と言っているようだった。
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