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台風
両親のいない朝。
何度かあったけれど、それは両親の任務の際に預けられた火影の家で、生まれた時から知っている者に囲まれて、微塵も不安はなかったのだ。
だが此処は知らない場所、知らない人ばかり。
テマリが二人を両脇に抱えベッドで一緒に眠ってくれていたから、目を覚ましても泣き出さずに済んだが、それでも母や父の気配がないのはとても心細かった。
しかし待っているとイルカと約束したから、泣かずに頑張ろうと、幼子達はテマリを起こさないようにゆっくり着替えを始めた。
窓辺に止まった黒い小さな鳥が、こつんとガラスをつつく。振り向けば母の使いだと判り、二人は夢中で窓に駆け寄った。
やたらと頑丈な鍵は小さな手では開かなかった。何度も試みるが、押しても引いても全く動かない。
「部屋の持ち主のチャクラにしか反応しないんだ。」
まだ眠っていた筈のテマリが身支度を終え、二人の後ろから鍵に手をかざす。
観音開きの窓の片方をそっと押すと、僅かに開いたその間から黒い小鳥はちょんと窓枠の内側に入ってきた。
「母さま。」
子ども達の声に小鳥は口を開いた。
「おはよう、ミナミ、ホナミ。」
イルカの声だ。テマリは術者そのままの声を発する小鳥をまじまじと見詰めた。
これ程高度な術を使うとは、とイルカの秘めた才能に感嘆する。子ども達からイルカは何処にでもいる鳥達を慣らして使うと聞いていたが、本当に偶然今朝見付けた一羽を慣らしたのだろうか。
小鳥は続けて話している。泣かずに頑張っているだろうからおばあちゃまからお土産をもらったよ、とイルカの声は嬉しそうだ。
お仕事はあと三日で終わるからね、と聞けば子ども達はテマリに抱き付いて喜んだ。
あと三日、あと三日、と歌うようにはしゃぎながら二人は部屋を出ていった。
その後ろ姿に可愛いな、と呟いたテマリは自分の発した言葉に恥ずかしさを覚え、照れを隠すように大股で子ども達の後を追い掛けながら、弟達の部屋のドアを叩いて起こしていった。
豆台風という言葉がぴったりだ、と大人達はその夜言い、残り二日をどう過ごさせるかを話し合った。
今日は砂の物珍しさもあり里の案内で終わったが、あの興味の示し方は二才とは思えない、一人前の忍びのものだとベテランの側近達は唸って腕を組んだ。
「何も隠すものはない、彼らはもう同士だ。」
我愛羅がはっきりと言い切ると、眉間に皺を寄せた側近達は暫く考え込んでいたが、頷いて同意を示した。
「機密は我々の体にしかありませんし。里の様子など解ったところで困る事は全くないでしょう。」
いや、彼らを疑う訳ではなく、と首を振り慌てて付け加える。ただどんな事態でも対応出来ると言いたいだけで、との言葉にそれは正しい、と我愛羅は笑った。
用心するのは大切だ、と言い会議を解散させた若い長の背中に、皆は改めて尊敬のまなざしを送った。
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