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商談
では本当の商談に入るか、と老いた忍びは呟いた。カカシはうなづくと隠し持つ武器を確かめ、体をほぐすように伸びをした。
商談とは任務の事。カカシは妻とこども達を振り返り行ってきます、と左手の親指を立てた。右利きのカカシが左手を使うのは、敵に利き手は左だと思わせる為。男達が既に戦闘体制に入っていると悟ったイルカは自分も武器を確かめ、腰を浮かせた。
それでは私も、とこども達とお手玉に興ずる奥さんに目礼をすると、こども達は夕ご飯はなあに、とイルカに笑って言った。そう、街中を歩いて探索するだけだから買い物も出来る。
夕飯は作りますからと言えば楽しみにしてるわ、たまには上げ膳据え膳もいいわね、と奥さんも返してくれる。
私達の両親はもういないので、少しだけ親孝行のまね事をさせて下さい。
イルカの小さな呟きに私達もこどもを失ったから同じよ、甘えて欲しいの。と優しい声は心に静かに染み入る。感傷を振り払うように勢いよく立ち上がると美味しいご飯を作ります、と言ってイルカは街へ出掛けた。
諜報の任務だが、もしクロならば先陣に立てと言われて来た。昔はともかく、今のカカシはどんなにランクが低い任務にも気を抜かないようにしている。イルカの為、ミナミとホナミの為、そして自分達に愛情を注いでくれる人達の為に。
今回も聞く限りまだ危険性はないが、火の国に不審な行商が幾人となく出入りしているとの情報により、全ての行商の戻った国を今カカシ達のいる此処と突き止めた。行商の証の木札は各国正式発行のものであったが、体から不自然に漏れるチャクラは一般人のものではなかろうと勘の働いた門番の忍びは仲間を呼び、続々と出国する彼らを追った。後をつけられないようにか凄まじい勢いで走り出したのを追うのは容易ではなかったが、それぞれ違う国から来ている筈の彼らが同じ国に向かう事で、何かが起こると確信を得たのだった。その行商達から漏れるチャクラは上忍でさえ気付かない程微量で、特別上忍のその門番でなければ判らなかっただろう。一つの技に特化している特別上忍は、そうして縁の下の力となりカカシ達上忍を支えている。
日なただけは暖かな晩秋の昼下がり、草の忍びとカカシは門番から教わったチャクラを頼りに街を歩いていた。見付かるまで何日でも何十日でもひたすら探す、それ程地道な任務である。元来面倒くさがりのカカシに任せたのは間違いなのでは、と進言された火影が人間は変わるもんじゃまあ見ておれ、と含み笑いしたのを回りは、ふうんと納得しない顔で見ていたのだ。
市場と間違う程大きな中心街で、今はただの旅の商人だぞ、と念を押されなければカカシは左目を開けたかもしれない。そこをぐっと堪えたのが成長の証だったが、俺は一生草なんか出来ません、とカカシは溜め息混じりに笑って肩を落とした。
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