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疲労
一日で収穫があろう筈はなく、男二人とイルカは夕焼けの朱色を纏い、脚を引きずりながら帰宅した。
イルカは人柄のお陰で商店の人達に顔を覚えられ、暫く滞在するとわかると割引券や福引券を沢山貰った。勿論鼻の傷は忍術で消し、普段はしない化粧もきっちりして、髪の色も明るい茶色に染めてある。素のイルカに会っても同一人物とは判断出来ないだろう。
そしてカカシも同様に、髪を黒くし前髪で眼帯をした左目の上に流せば、それだけで一般人には気付かれない。
「いやぁ、賑やかな街ですね。」
どかりと座り込んだカカシにこども達が纏わり付く。両親が留守の間に起こった出来事を全て話したいようで、聞いて聞いてと右と左から興奮した甲高い声を張り上げては、イルカに父様はお風呂が先、と引き剥がされる始末だ。
「この国は四方が三つの国に囲まれていますからね。商談用の土地を提供してるだけなので、人通りは多いんですけど地場産業なんて何もないんですよ。」
暗に此処は戦場になるのだと言う笑顔の奥さんの隣で、おやじさんは黙って脚を揉みほぐしていた。日焼けで黒く艶のある逞しい腕はとてもただの薬屋には見えないが、彼の長年の草としての苦労が伺われる力強さがあった。
お先にお風呂をいただきまして、と戻ったカカシの両脚にはこども達がそれぞれしがみついていた。右脚にはミナミ、左脚にはホナミ。代わる代わる前へ脚を踏み出すカカシに振り落とされないようにしがみつく遊びは楽しいらしく、二人はもっともっと、と大声を上げてカカシを煽って騒ぐ。
先に飲んでいてくれ、と 立ち上がったおやじさんは風呂で考え込んでいたのか寝ていたのか、カカシがすっかり出来上がった頃に出てきた。
イルカが次々と出してくるおかずを摘みながら、二人は翌日からの予定を組み直す。
「待ってるだけじゃ駄目ですよ、相手の目的も解らないんですから。」
「ああ、まず目的だけでもな。」
何か仕掛けるつもりかと、奥さんは二人の間に膝を着いた。
風評の流布、なんて良くない?
お前の得意だからなぁ、と長年連れ添った夫婦の阿吽の呼吸はそれだけで計画を完成させていた。
まぁこういう事だ、と説明されてカカシはほぅとうなづく。この場合に心理作戦は有効ですね。
噂話程度にしといていいでしょ、と奥さんは勝手にイルカに流す噂の内容と方法を教える。まあ、商店街で内緒だけどあの人がね、と言ったら翌日には道を歩けなくなるのよね。とさらりと怖い事を言ってのけて笑って。
「忍びの情報網より凄いんですね。」
とイルカは目を剥いて純粋に驚いた。
あら気付かなかったかしら、と奥さんは他にも草の忍びが商店街で店を営んでいると教えてくれた。商業用の土地ということは、他国の情報は此処にいるだけで手に入るということでもあるのだ。流石火影様、とカカシとイルカは顔を見合わせた。
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