3

任務
だから、子連れの方が相手も油断するでしょ、と扉の外まで普段より遥かにトーンの高いイルカの声が響いた。それに対してぼそぼそと、低い声が途切れ途切れに聞こえる。火影の苦しげな言い訳のようだ。
だからぁ、と更に大きなイルカの声に、扉の前に好奇心で立ち止まっていた人々が慌てて歩き出した。この二人には関わりたくはないからだ。
うちの子達が普通じゃないのは皆知ってるじゃないですか、危険性は充分承知で言ってます。と腕組みしたイルカの迫力は流石カカシの嫁だな、と火影を感心させるがいやいやそこじゃない、と意識を戻して火影は体を乗り出した。だが、と切り出せば言葉尻に被せるようにまだ言いますか、とイルカが構えた。火影は背もたれに体を預け脱力すると、好きにせい、と呟いて目を閉じた。何を言おうが聞きゃしないだろうと長い溜め息が出る。
ありがとうございます、と直角にお辞儀をしてカカシに報告に走り出したイルカに、火影はこんなに頑固な子に育てた覚えはないがなぁ、と苦笑いをして任務依頼書に同行者実子二人と書き添えた。

そうして数日後には、旅行に行くかのように親子四人は里の外へとのんびり歩いて行った。
「火影様、行かせちゃ駄目でしょう。」
とサクラは腕を組んで火影を睨みつけた。しかし火影はサクラもイルカに似てきたなぁ、と反論する気も起こらず緩く笑っていただけだった。

まだ頭の方が重いこども達は走り出しては何かにつまづいて、その度に両親のどちらかに首根っこを掴まれた。そう距離も歩かずに体力の問題が出て、早々と二人は両親の腕に納まる事になった。
まあこの調子なら、明日には着くけれど。とカカシが嬉しそうに言うのを睨みイルカは任務ですよ、と溜め息混じりに微笑んだ。仕方ない、初めての親子任務が里外への安全なと思われる諜報なのだから。
お天気が変わるよ、とホナミが空を見上げた。ミナミに比べると大人しい彼はろくに字も読めない頃から本や巻物を眺めるのが好きで、イルカに説明してもらいながら知識を蓄えていた。
あら本当だわ、とイルカも空を見上げ微笑んで息子にほお擦りをした。不吉な話だが、カカシと自分は何者かによっていつ命を絶たれるか判らない。だからこの子達には自分の身を守る術を、知る限り全て教えておきたい、とイルカは二人が生まれる前から思っていたのだ。
そしてカカシも同様に思っていた。ただ、必要とあらば敵を討つ事も辞さないように強くあってほしい、とそれはイルカには言えなかったが。
欠伸を噛み殺す腕の中の小さな体はカカシにしがみつき、限界を訴えていた。雨にもなるし宿まで急ぐかね、とカカシはイルカに笑いその手を取って速足で歩き始めた。
つかの間の幸せに、できればこのまま平穏な日々がずっと続きますようにと、イルカは祈らずにいられなかった。母として。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。