悩み事
どうしよう、とイルカは自分でも気付かない程の大きな声で独り言を言った。職員室の全員が振り返る。その視線にイルカは、はっと息を呑んでごまかし笑いを返した。
「すみません。」
いやいいから、と教頭が苦い笑いで手を振った。さっきから一人で悩むイルカに声が掛けられないのは、それが答えの出ている悩みだからだ。
イルカとカカシのこども達、双子のミナミとホナミをアカデミーに入学させるか否か。二人がまだ二才にもなっていないのにそれを考えるのは早過ぎないか、と事情を知らない者達は言うだろう。だが木ノ葉の里の誇る写輪眼のカカシと、上忍並の実力を持つアカデミー教師のイルカのこども達は、幸か不幸かチャクラの質も量も忍びとしては最高のものを持っていたのだ。
ご隠居達の権力はいまだに強力で、火影も側近の幹部達も逆らえない。早期教育をとせっつかれてカカシに頭を下げたがまるで相手にされず、説得してくれとイルカに泣きついたのだ。
しかしイルカも、早期教育には賛成しかねていた。全面否定ではないが、いくら何でも早過ぎるだろうと漸くおむつの取れた子達の事を思う。
あのぉ、と教頭が腫れ物に触るように声を掛けてきた。手に持った書類を渡すべきか迷っているようで、イルカはまた何を言われてきたかと中間管理職の気苦労を思い、それを受け取った。
はあ?
イルカの怒り混じりの驚きに教頭の肩がびくついた。職員室の全員がまた振り向くが、今度はイルカも視線を気にしない。
「何ですか、これは。」
書類を突っ返すと、教頭は慌てながらもそれをまた押し返し説明を始めた。幼稚園を新設して低年齢のこども達を受け入れる、という既に決定したもので、ミナミとホナミも入園させろと半ば命令の通達だったのだ。明らかに二人のために作ったと判る。
入園許可証って、とイルカは絶句した。誰も入れてなんて言ってないし、何よりカカシさんはこんなの大嫌いじゃない。
今、季節は秋から冬へ移る頃。来年春には一期生として入園する事になっていて、書類には入園式の日時も書かれていた。
いや来春でもうちはまだ二才でしょ、幼稚園にも入れないじゃない。とイルカは書類を穴があく程見詰めた。
取り敢えず保留にしておいて下さい、と溜め息をつきながらイルカは渡された書類を無造作に鞄に入れて席を立った。
今日はカカシさんが久し振りに完全休暇で家にいるというのに。喧嘩はしたくないし、かといって避けては通れない話だし、私はどうしたらいいんだっ、とその気持ちは職員室のドアに八つ当たりとなり軽い地響きと共にドアは閉められた。
困ったなぁ、と聞こえるような教頭の溜め息は職員に伝染したらしい。皆の顔は一様に曇っていた。いいじゃないか、子どもの将来くらい親が考えるものだ。どうして上の方は放っておいてくれないのか、と家族同然のイルカ達を親身になって思っているから。
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