八月 その七
イルカはカカシが何を言ったのか、誰に言ったのか、暫くは理解出来ずに立ちすくんでいたが、カカシがお返事を、と促すと辺りを見回し誰かに説明を求め縋るような表情をした。
「だからね、婚約破棄でしょう、改めて俺が申し込みしてるんです。」
えええぇ、と叫んだイルカはその場にそぐわない自分の言葉に驚き、口を押さえた。馬鹿、私、私―。
どうしよう。
特別席の火影が笑って口を開いた。
「この場でのカカシの求婚に、別に問題は無い。イルカ、返事をしなさい。…断っても構わん。」
「いや、火影様、それは誘導じゃないですか。いくら義理の娘だからって、横暴ですよ。」
俺じゃ不満ですかね、違う、誰でも気に入らないんだ。
ぶつぶつと独り言のように頭の後ろを掻きながら口を尖らせるカカシに、観客からも笑いが漏れる。イルカの緊張はほぐれ、ふっと笑顔に為った。
「貴女には笑顔が似合う。ずっと見ていたい。」
きゃあ、とあちこちから高い声がして、若い女性が数人腰を抜かして座り込んだのが忍び達には判った。
「あ、……えと、カカシ先生。」
イルカの顔が少しずつ赤く染まる。あまりにも恥ずかしい状態だと自覚はしているが、見詰め合った侭の目がそらせない。握られた掌が熱く、高まる鼓動がそこに集中するかのようだ。カカシの速い鼓動も伝わってくる。
「…イルカ、先生…。」
まただ、とイルカは思った。どうしてこの人は、呼び捨てにするみたいな判らないような言い方をするんだか。勘違いしちゃうわよ。あ、いいんだもう、勘違いじゃないから。
―おやおや、意外と冷静だわ、私。
ふわりと微笑んだその笑顔に、カカシは思わず叫んだ。
「そんな素敵な顔は人には見せないで。」
どっと笑いが起こり、野次と拍手と口笛が二人に浴びせられた。さっさとくっつけ、とか早くうちに帰って子作りしてろよ、とか皆好き勝手を言う。場が収まらないと見たカカシは立ち上がり、イルカを腕の中に抱き込むと耳元に囁いた。
「貴女を一生、必ず守るから。俺は絶対、死なない。」
「約束ですよ。私は、貴方が居なかったら生きていけません。」
イルカの両手がカカシの背に回る。身長差があまり無い為、イルカの傾けた頭はカカシの肩に乗った。薄い衣装を通して温かな涙がその肩に感じられ、カカシは腕に力を籠めてきつくイルカを抱き絞める。
また、痩せたね。
ごめん、とカカシは呟くとふうと息を吐き、おもむろに顔を上げ観客に向かって口を開いた。
「俺は、はたけカカシは、うみのイルカを、妻にする。誰か文句のある奴は、かかって来い!」
再び静寂が境内を包んだ。風も無いのか、涼しい筈の夜の山だというのに汗が流れ続けるが、誰一人として動かない。成り行きで此処にいるのだがこれは最後まで見届けたい、と好奇心だけではなく、舞台の二人に感情移入すらして見守っているのだ。
じっくりと、ゆうに数分。カカシはイルカを抱いた侭辺りに睨みをきかせていた。
もう良いだろう、と火影が立ち上がり言う。
「婚姻を許可する。」
その後の騒ぎは、神社の 立つ山を震わせて崖にひびを入れたとさえ後に言われた程だ。そしてそのまま、本大祭の二日目は終わらなかったのである。
火の国にも知れ渡る写輪眼のカカシと五十年に一度の本大祭の舞姫のイルカ、そんな二人の恋の一部始終を知りたくないと言う人間の方が珍しいだろう。祭りの意味は違ったものに為ってしまったようだが、終わり良ければ全て良し、で本当に終わらせてしまったのは流石祭り好きの火の国の体質故か。
イルカはカカシが何を言ったのか、誰に言ったのか、暫くは理解出来ずに立ちすくんでいたが、カカシがお返事を、と促すと辺りを見回し誰かに説明を求め縋るような表情をした。
「だからね、婚約破棄でしょう、改めて俺が申し込みしてるんです。」
えええぇ、と叫んだイルカはその場にそぐわない自分の言葉に驚き、口を押さえた。馬鹿、私、私―。
どうしよう。
特別席の火影が笑って口を開いた。
「この場でのカカシの求婚に、別に問題は無い。イルカ、返事をしなさい。…断っても構わん。」
「いや、火影様、それは誘導じゃないですか。いくら義理の娘だからって、横暴ですよ。」
俺じゃ不満ですかね、違う、誰でも気に入らないんだ。
ぶつぶつと独り言のように頭の後ろを掻きながら口を尖らせるカカシに、観客からも笑いが漏れる。イルカの緊張はほぐれ、ふっと笑顔に為った。
「貴女には笑顔が似合う。ずっと見ていたい。」
きゃあ、とあちこちから高い声がして、若い女性が数人腰を抜かして座り込んだのが忍び達には判った。
「あ、……えと、カカシ先生。」
イルカの顔が少しずつ赤く染まる。あまりにも恥ずかしい状態だと自覚はしているが、見詰め合った侭の目がそらせない。握られた掌が熱く、高まる鼓動がそこに集中するかのようだ。カカシの速い鼓動も伝わってくる。
「…イルカ、先生…。」
まただ、とイルカは思った。どうしてこの人は、呼び捨てにするみたいな判らないような言い方をするんだか。勘違いしちゃうわよ。あ、いいんだもう、勘違いじゃないから。
―おやおや、意外と冷静だわ、私。
ふわりと微笑んだその笑顔に、カカシは思わず叫んだ。
「そんな素敵な顔は人には見せないで。」
どっと笑いが起こり、野次と拍手と口笛が二人に浴びせられた。さっさとくっつけ、とか早くうちに帰って子作りしてろよ、とか皆好き勝手を言う。場が収まらないと見たカカシは立ち上がり、イルカを腕の中に抱き込むと耳元に囁いた。
「貴女を一生、必ず守るから。俺は絶対、死なない。」
「約束ですよ。私は、貴方が居なかったら生きていけません。」
イルカの両手がカカシの背に回る。身長差があまり無い為、イルカの傾けた頭はカカシの肩に乗った。薄い衣装を通して温かな涙がその肩に感じられ、カカシは腕に力を籠めてきつくイルカを抱き絞める。
また、痩せたね。
ごめん、とカカシは呟くとふうと息を吐き、おもむろに顔を上げ観客に向かって口を開いた。
「俺は、はたけカカシは、うみのイルカを、妻にする。誰か文句のある奴は、かかって来い!」
再び静寂が境内を包んだ。風も無いのか、涼しい筈の夜の山だというのに汗が流れ続けるが、誰一人として動かない。成り行きで此処にいるのだがこれは最後まで見届けたい、と好奇心だけではなく、舞台の二人に感情移入すらして見守っているのだ。
じっくりと、ゆうに数分。カカシはイルカを抱いた侭辺りに睨みをきかせていた。
もう良いだろう、と火影が立ち上がり言う。
「婚姻を許可する。」
その後の騒ぎは、神社の 立つ山を震わせて崖にひびを入れたとさえ後に言われた程だ。そしてそのまま、本大祭の二日目は終わらなかったのである。
火の国にも知れ渡る写輪眼のカカシと五十年に一度の本大祭の舞姫のイルカ、そんな二人の恋の一部始終を知りたくないと言う人間の方が珍しいだろう。祭りの意味は違ったものに為ってしまったようだが、終わり良ければ全て良し、で本当に終わらせてしまったのは流石祭り好きの火の国の体質故か。
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