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五月 その四
鼻が低くなるじゃない、とその指を少し不快に思いながらイルカは長い指を見詰め、自然寄り目に為る。そしてカカシに笑われた。
ぷうと頬を膨らませ知らない、と職員室へ入ろうと足を出したら後ろから肩を抱かれた。笑いに小刻みに震えながら。
「許して、下さい、でも、だって、可愛いん、だもん、そんな、顔。」
寝ぼけてませんか、とイルカはお返しに鼻を摘んだ。そりゃあお花は綺麗な季節だけど、今は余裕がないからあまり行きたいと思わない…とは流石に言えない。
しかしイルカが思案する間にそれは既に決定されたようで、お昼少し前に伺います、と告げてカカシが準備だ準備だと走り去る様は、覚えたてで上手くはないこどものスキップだ。ほら、蹴つまづいた。
その夜、イルカはお花畑って何処だろ、と真剣に考えた。
―あ、あの丘の上。そうだ、また来ようと約束してくれた。
思い出すと何だか恥ずかしくて、イルカは布団を頭から被って無理矢理寝た。

イルカの誕生日。からりと晴れた。
生まれたのは何時だか聞いてはいなかったが、今日は一日とにかく誕生日だ。もう喜ぶ年でもないが、祝ってもらうのは嬉しい。
自分の存在を許されたような気になるのだ。そして、自分は必要とされている、とも確認する日。

イルカは弁当を今までになく、丁寧に豪華に作った。味さえ良ければいいんだけど、やっぱり見た目も気になるし。
作り終わると、空いた時間に洗濯と掃除を出来るだけやっておこうと張り切りすぎて、カカシが迎えに来た時には汗だくとなっていた。

今日はあの子達いないんだ、と犬を探す独り言は大きく。あいつらは後で出しますよ、とのひと言でイルカの頬は緩む。
さあ行きましょ。腕に弁当を抱えたイルカを、カカシは抱き上げた。
一瞬の内に走り出し、景色はよく見えない程速く流れる。もう降ろせとも言えない。お弁当だけは死守したが、下ろしたままの髪は酷い事になっていた。
着いたよ、と言われたがイルカは目が回り、座り込んでしまった。所要時間十分あまり。
落ち着くと回りは花だらけだと判る。ふっと力が抜けた。
「お誕生日、おめでとう。」
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