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四月その四
イルカは火影と歩き出す。
どうだ。良い方ですね。そうか。
暗闇に星が瞬き、明日も晴れだと教えてくれる。
カカシ達は、明日には帰還出来るだろう。と火影は言い、明日は受付は手が足りている、と付け加える事も忘れない。
カカシの奴が名乗りを上げとりゃのお…。呟きは闇に吸い込まれ、イルカは聞こえない振りで。
火影は、カカシが先に嫁取り合戦に参加していれば、誰にも有無を言わせずに決定するつもりだったのだ。里でこれ以上は居まいと云う程の夫婦と為ろう、と。
よく休めよ、と火影はイルカに声を掛け、お休みなさいと返して別れた。

アパート迄の僅かな距離を、ゆっくりとイルカは歩く。
ツグナリの人となりは理解したつもりだ。いい人だと思う。先に出会っていれば、恋愛感情は抱け無くとも、真っさらな気持ちで結婚する事は可能だったかもしれない。
先に。カカシより先に。
いや、と思い切り首を横に振り、イルカはそんな事を考える自分を否定する。私が決めた事だ。何を今更。

いつものように部屋に帰り、何事も無かったかのように過ごす。風呂から上がり髪を解いて、さらりと流れたその毛先に、カカシが触れたあの日を思い出した。
祭りが終わる迄、伸ばしてみよう。カカシ先生に覚えていて欲しいから、貴方を好きだった私を。
そして貴方が好きだと言ってくれたから、もう結ばない。

翌日、イルカは髪を下ろした侭アカデミーに出勤した。職員室でどうしたんだと聞かれて、祭りの為に伸ばすんだ、と笑えば皆納得した。
生徒達にはイルカ先生女みたい、と言われて少し傷付いた。高学年の女の子には、髪の手入れ法を教えられた。
ついでに肌の手入れもしたらと言われて、自分はどんな風に思われていたのかと、トイレで鏡を見詰めてしまう。
午後は授業が無く、イルカは事務に回った。雑務は山のようにあったから、必要書類のより分けから始めた。いる、いらない、と夢中に為っていたら机の前に誰かが立つのがちらりと見え、顔を伏せた侭何の書類をお探しですかと問う。黙った侭の人物に再度問いながら顔を上げると、カカシが頭を掻いていた。
「イルカ先生を探してました。只今戻りました。」
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