二月 その五
見られた、と思ったが既に遅し。二人はいいネタだとばかり、足早に立ち去り向こうで立ち話をしている主婦達に合流した。小さく歓声が上がり、ちらちらとカカシとイルカを見ている。
はっと我に還り、カカシはイルカを抱えたまま家の中へと素早く入った。
後ろできゃあとまた声が上がる。慌てて玄関を閉め、カカシは結界を張ってしまった。イルカが腕の中でほうっと息を付いたのに気付き、腕を緩めて体を離す。
イルカはお帰りなさい、と笑ってその後顔をくしゃりと歪めた。反射的にただいま、と返してしかしカカシはえっ、とイルカの顔を覗き込む。どうしたの。
ぽろりと涙が零れ、カカシは袖でその涙を拭おうとしてあ、と気付きあたふたと服を脱ぎ出した。
汚いし臭いから寄らないで下さい。と言えば、イルカは首を横に振る。カカシ先生が任務をきちんとこなしてきた証です。臭くなんかありません。それに、無事で安心しました。
最後の方は言葉にならない。イルカは俯いて涙をぽとぽとと床に落とした。愛しいと、ただ愛しいと、カカシはイルカを抱き締める。
心配かけてごめんなさい―。他に言葉が見付からない。まやかしの睦言なら今までいくらでも紡げたのに。
暫くしてイルカはぐすんと鼻を啜り顔を上げ、明るい声を出した。
「先にお風呂に入って下さい。お腹も空いていませんか、今支度しますから。」
カカシを困らせてはいけないと無理に笑顔を作ったのに気付いたが、イルカの気持ちを思い素直に従った。
風呂から出てさっぱりすると、カカシはふっと口元を緩める。こうやって家に誰かがいるっていいな。
今まで女は誰も家に入れなかった。入り浸ってベタベタされるのは嫌いだと、付き合うなどした事が無い。寧ろ近付いて欲しくはなかったが、男のさがが時折頭をもたげた時だけは利用させてもらっていたのだ。なのに今は。
そこでふと誰かが、ではなくイルカが、だと気付きカカシは頬を染める。イルカに此処に居て欲しいと願う、自分の願いは叶えられるのだろうか。
部屋着には着替えたが髪は濡れたままのカカシを、イルカはそっと拭いてやる。
「何をぼうっとしてるんです。疲れて眠いんじゃないですか。」
目の前の顔が笑い、覗き込んで来る。綺麗な目だな、と思いながらカカシはふらっとイルカに倒れ込んだ。肩口に唇を付けてその素肌に触れる。さりげなく、拒否されない程度にイルカの体を、熱を感じたい。
「うん。イルカ先生のせいだ。」
カカシがきゅうと抱き締めて体重を掛けると、イルカは重みでふらついた。
何が、と言いかけて足元に気を取られたのをいい事に、その隙に耳たぶをそっと啄んで吐息の声を落とす。
「貴女が居てくれる事が嬉しくて、気が抜けました。少し休みたいです。だから…」
カカシがずるっと膝から崩れるように力を抜いたので、縋り付かれていたイルカも一緒に倒れた。
お願いだから、此処に。
抱き着いたまま畳に横になって、カカシは眠ると言う。イルカの頬に手を添え、ふ、と微笑むと唇を重ねた。ねろりと舐めて舌を差し入れては歯の裏をなぞり、逃げる舌を追う。次第に絡み付き熱を上げるイルカをもっと、と追い上げる。が、苦しいと逃げるのを離すと、カカシはごろりと寝転んで大きく息を吐いた。
真っ赤な顔をしたイルカが後ずさりしながら起き上がると、カカシは既に寝入っていた。
何のつもりか判らなかった。この間の花街の女の人のように思ってるんじゃないか。いや寝ぼけて間違えたのでは。
イルカは首を振って否定した。違う、確かに私の名を呼んだ。では、何故。気まぐれ?遊び?
布団を掛けてやり、作った食事を火にかければいいとメモを残し、イルカは逃げるように家に帰る。最後まで迷ったが、カカシの為に作った甘みの少ないココアケーキを丸々一個、卓の上に置いて。
真っ暗になってからカカシは跳び起きた。イルカの気配が無い。家中を探し回ったが、イルカはいない。玄関で座り込んで、カカシは自己嫌悪に陥る。何で寝ちゃったんだろう。
しかし寝入る前に自分がイルカにした事を覚えていないのは、後々もっと自己嫌悪に陥る原因と為るのだが。
見られた、と思ったが既に遅し。二人はいいネタだとばかり、足早に立ち去り向こうで立ち話をしている主婦達に合流した。小さく歓声が上がり、ちらちらとカカシとイルカを見ている。
はっと我に還り、カカシはイルカを抱えたまま家の中へと素早く入った。
後ろできゃあとまた声が上がる。慌てて玄関を閉め、カカシは結界を張ってしまった。イルカが腕の中でほうっと息を付いたのに気付き、腕を緩めて体を離す。
イルカはお帰りなさい、と笑ってその後顔をくしゃりと歪めた。反射的にただいま、と返してしかしカカシはえっ、とイルカの顔を覗き込む。どうしたの。
ぽろりと涙が零れ、カカシは袖でその涙を拭おうとしてあ、と気付きあたふたと服を脱ぎ出した。
汚いし臭いから寄らないで下さい。と言えば、イルカは首を横に振る。カカシ先生が任務をきちんとこなしてきた証です。臭くなんかありません。それに、無事で安心しました。
最後の方は言葉にならない。イルカは俯いて涙をぽとぽとと床に落とした。愛しいと、ただ愛しいと、カカシはイルカを抱き締める。
心配かけてごめんなさい―。他に言葉が見付からない。まやかしの睦言なら今までいくらでも紡げたのに。
暫くしてイルカはぐすんと鼻を啜り顔を上げ、明るい声を出した。
「先にお風呂に入って下さい。お腹も空いていませんか、今支度しますから。」
カカシを困らせてはいけないと無理に笑顔を作ったのに気付いたが、イルカの気持ちを思い素直に従った。
風呂から出てさっぱりすると、カカシはふっと口元を緩める。こうやって家に誰かがいるっていいな。
今まで女は誰も家に入れなかった。入り浸ってベタベタされるのは嫌いだと、付き合うなどした事が無い。寧ろ近付いて欲しくはなかったが、男のさがが時折頭をもたげた時だけは利用させてもらっていたのだ。なのに今は。
そこでふと誰かが、ではなくイルカが、だと気付きカカシは頬を染める。イルカに此処に居て欲しいと願う、自分の願いは叶えられるのだろうか。
部屋着には着替えたが髪は濡れたままのカカシを、イルカはそっと拭いてやる。
「何をぼうっとしてるんです。疲れて眠いんじゃないですか。」
目の前の顔が笑い、覗き込んで来る。綺麗な目だな、と思いながらカカシはふらっとイルカに倒れ込んだ。肩口に唇を付けてその素肌に触れる。さりげなく、拒否されない程度にイルカの体を、熱を感じたい。
「うん。イルカ先生のせいだ。」
カカシがきゅうと抱き締めて体重を掛けると、イルカは重みでふらついた。
何が、と言いかけて足元に気を取られたのをいい事に、その隙に耳たぶをそっと啄んで吐息の声を落とす。
「貴女が居てくれる事が嬉しくて、気が抜けました。少し休みたいです。だから…」
カカシがずるっと膝から崩れるように力を抜いたので、縋り付かれていたイルカも一緒に倒れた。
お願いだから、此処に。
抱き着いたまま畳に横になって、カカシは眠ると言う。イルカの頬に手を添え、ふ、と微笑むと唇を重ねた。ねろりと舐めて舌を差し入れては歯の裏をなぞり、逃げる舌を追う。次第に絡み付き熱を上げるイルカをもっと、と追い上げる。が、苦しいと逃げるのを離すと、カカシはごろりと寝転んで大きく息を吐いた。
真っ赤な顔をしたイルカが後ずさりしながら起き上がると、カカシは既に寝入っていた。
何のつもりか判らなかった。この間の花街の女の人のように思ってるんじゃないか。いや寝ぼけて間違えたのでは。
イルカは首を振って否定した。違う、確かに私の名を呼んだ。では、何故。気まぐれ?遊び?
布団を掛けてやり、作った食事を火にかければいいとメモを残し、イルカは逃げるように家に帰る。最後まで迷ったが、カカシの為に作った甘みの少ないココアケーキを丸々一個、卓の上に置いて。
真っ暗になってからカカシは跳び起きた。イルカの気配が無い。家中を探し回ったが、イルカはいない。玄関で座り込んで、カカシは自己嫌悪に陥る。何で寝ちゃったんだろう。
しかし寝入る前に自分がイルカにした事を覚えていないのは、後々もっと自己嫌悪に陥る原因と為るのだが。
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