一月 その一
「せんせ、すっごおい。どうしたの、それぇ。」
大声の女の子達のユニゾンに、当のイルカは思わず後ろへすさっていく。
綺麗、ともう一度重なる声の主達はわらわらとイルカを取り囲み始めた。
年が明けて正月の三日、里の一番大きな神社の前に集合。
それだけを聞いて、イルカは今は下忍と為ったかつての教え子達が、初詣でに独り身の自分を誘ってくれたのだと思っていた。だから、忍服ではないがシンプル過ぎる程の普段着で出掛けようと部屋を出たところを、紅に捕まった。
やっぱりね、と紅は腰に手を当て大袈裟に溜息を付いた。何事かと顔を強張らせていると、紅はその腕を掴んでイルカを部屋へと戻した。
「どうしたんですか、紅先生。」
イルカは新年の挨拶も忘れた侭、玄関先でうろたえていた。そんなイルカを紅は、まだ時間はあるわねと、値踏みをするような目付きで上から下まで眺めて言う。
いきなり部屋の真ん中に立たされ服を脱がされ、イルカは慌てて自分の肩を抱きしゃがみ込んだ。
「紅先生、何するんですか、私もう出掛けなきゃいけないんですけど。」
笑ってしゃがみ込み、目線を合わせて紅はイルカの鼻を突いて言った。
「あら行き先は一緒だから大丈夫よ。それより早く着替えなきゃ。」
とイルカを立たせると、紅は丈の長いスリップドレスをイルカに着せた。
更に腕を袖に通させ、胸元を合わせるとそれを紐で結び、一旦下がって全身を眺めてはよし、とうなづいて作業を続ける。
次は、と取り出した物をイルカの腹に巻き付け締め上げる。ぐえ、と色気のない声がイルカの口から漏れた。その後は声すらも出ない。
時間を掛けてウェスト回りをいじると、紅はよしっ、とイルカの背を叩いた。
鏡を見て、と言われて部屋の隅の姿見を振り返ったイルカは、自分の姿に驚いた。
ドレスとジャケットだとばかり思っていたのが、自分は着物姿になっているのだから。
イルカは鏡と自分の姿を何度も見比べて、それは無意味な動作だと承知しているのだがやめられない。動揺しているのだ。
イルカの身長に合うのを探したらこんなの見付けちゃってね、と紅は実に嬉しそうに言う。
お化粧して、髪を上げて簪を挿したら行きましょう。
はっとして紅を見ると、先程はイルカも慌てていて気付かなかったが、綺麗なドレスを着ていた。側に投げ捨てられた毛皮のコートは、イルカには一生買えないだろう。
念入りに化粧を施されたらしいイルカは、行くわよと言われ自分の姿を見る事もなく紅に手を引かれて、慣れない足元に苦労しながらも神社へと向かった。
既にそこにはアスマとガイとカカシ、そして彼らの部下達がいた。そして、その中の少女達にイルカは取り囲まれたのだった。
「おい紅、あれ本当にイルカかよ。」
取り落とした煙草を足で揉み消して、拾えと部下達に怒られながらもアスマはイルカを凝視し続ける。隣のガイは綺麗だ綺麗だと言うばかりだ。
苦労したかいがあったわよねえ、と自慢げな紅は振り向いてカカシを確認した。
初詣でなんて冗談じゃないとごねるカカシをアスマと二人でどうにか説得し、着物を着せる事に成功した。口布をマスクにし、左目は小さな目立たない眼帯に変えてくれたから、それで良しとしよう。だって、イルカと対にするために頑張ったんだから。
にぃ、と笑みを零して紅は腕を組んだ。
初めて見たイルカの着物姿に、カカシは動けなかった。心臓を掴まれたように胸が痛んで息が出来ない。酸欠で頭も真っ白で、しかし頬に熱が集まる。
我慢出来ない、と踵を反したその瞬間に、視線が絡んだ。
見詰め合うイルカとカカシ。
「なあなあ先生、早く行こうぜ。」
羽織の袖を引くナルトに、助かったとカカシは息を吐いた。激情を隠せた自信が無かったのだ。感情が顔に出ないのが自慢だったのに。
鳥居までの長い石段を登ろうとカカシが歩き出すと、紅が怒ったように呼び止めた。
「あんたはイルカと一緒に行くのよ。」
え、とうろたえたカカシに紅は畳み掛ける。いくら忍びだからってこの人混みは危ないでしょ、と言ってアスマに守られて紅は登っていく。
既に遥か彼方に見えるガイとこども達を見付けると、カカシは確かに大変そうだとしかめっつらになった。
だから嫌なんだよ、と漏らした呟きに後ろから微かな声が聞こえた。イルカが誤解したのだと解って、カカシは振り向いて笑顔で違うんです、と言った。オレはただ人混みが嫌いなだけで。
私も慣れません、と口元に手を当て傾げた首筋が白く細く、この肌に吸い付いて赤く印を付けたいと、カカシは自分の中の蛇がうごめくのをやっとの思いで押さえ付けた。
「せんせ、すっごおい。どうしたの、それぇ。」
大声の女の子達のユニゾンに、当のイルカは思わず後ろへすさっていく。
綺麗、ともう一度重なる声の主達はわらわらとイルカを取り囲み始めた。
年が明けて正月の三日、里の一番大きな神社の前に集合。
それだけを聞いて、イルカは今は下忍と為ったかつての教え子達が、初詣でに独り身の自分を誘ってくれたのだと思っていた。だから、忍服ではないがシンプル過ぎる程の普段着で出掛けようと部屋を出たところを、紅に捕まった。
やっぱりね、と紅は腰に手を当て大袈裟に溜息を付いた。何事かと顔を強張らせていると、紅はその腕を掴んでイルカを部屋へと戻した。
「どうしたんですか、紅先生。」
イルカは新年の挨拶も忘れた侭、玄関先でうろたえていた。そんなイルカを紅は、まだ時間はあるわねと、値踏みをするような目付きで上から下まで眺めて言う。
いきなり部屋の真ん中に立たされ服を脱がされ、イルカは慌てて自分の肩を抱きしゃがみ込んだ。
「紅先生、何するんですか、私もう出掛けなきゃいけないんですけど。」
笑ってしゃがみ込み、目線を合わせて紅はイルカの鼻を突いて言った。
「あら行き先は一緒だから大丈夫よ。それより早く着替えなきゃ。」
とイルカを立たせると、紅は丈の長いスリップドレスをイルカに着せた。
更に腕を袖に通させ、胸元を合わせるとそれを紐で結び、一旦下がって全身を眺めてはよし、とうなづいて作業を続ける。
次は、と取り出した物をイルカの腹に巻き付け締め上げる。ぐえ、と色気のない声がイルカの口から漏れた。その後は声すらも出ない。
時間を掛けてウェスト回りをいじると、紅はよしっ、とイルカの背を叩いた。
鏡を見て、と言われて部屋の隅の姿見を振り返ったイルカは、自分の姿に驚いた。
ドレスとジャケットだとばかり思っていたのが、自分は着物姿になっているのだから。
イルカは鏡と自分の姿を何度も見比べて、それは無意味な動作だと承知しているのだがやめられない。動揺しているのだ。
イルカの身長に合うのを探したらこんなの見付けちゃってね、と紅は実に嬉しそうに言う。
お化粧して、髪を上げて簪を挿したら行きましょう。
はっとして紅を見ると、先程はイルカも慌てていて気付かなかったが、綺麗なドレスを着ていた。側に投げ捨てられた毛皮のコートは、イルカには一生買えないだろう。
念入りに化粧を施されたらしいイルカは、行くわよと言われ自分の姿を見る事もなく紅に手を引かれて、慣れない足元に苦労しながらも神社へと向かった。
既にそこにはアスマとガイとカカシ、そして彼らの部下達がいた。そして、その中の少女達にイルカは取り囲まれたのだった。
「おい紅、あれ本当にイルカかよ。」
取り落とした煙草を足で揉み消して、拾えと部下達に怒られながらもアスマはイルカを凝視し続ける。隣のガイは綺麗だ綺麗だと言うばかりだ。
苦労したかいがあったわよねえ、と自慢げな紅は振り向いてカカシを確認した。
初詣でなんて冗談じゃないとごねるカカシをアスマと二人でどうにか説得し、着物を着せる事に成功した。口布をマスクにし、左目は小さな目立たない眼帯に変えてくれたから、それで良しとしよう。だって、イルカと対にするために頑張ったんだから。
にぃ、と笑みを零して紅は腕を組んだ。
初めて見たイルカの着物姿に、カカシは動けなかった。心臓を掴まれたように胸が痛んで息が出来ない。酸欠で頭も真っ白で、しかし頬に熱が集まる。
我慢出来ない、と踵を反したその瞬間に、視線が絡んだ。
見詰め合うイルカとカカシ。
「なあなあ先生、早く行こうぜ。」
羽織の袖を引くナルトに、助かったとカカシは息を吐いた。激情を隠せた自信が無かったのだ。感情が顔に出ないのが自慢だったのに。
鳥居までの長い石段を登ろうとカカシが歩き出すと、紅が怒ったように呼び止めた。
「あんたはイルカと一緒に行くのよ。」
え、とうろたえたカカシに紅は畳み掛ける。いくら忍びだからってこの人混みは危ないでしょ、と言ってアスマに守られて紅は登っていく。
既に遥か彼方に見えるガイとこども達を見付けると、カカシは確かに大変そうだとしかめっつらになった。
だから嫌なんだよ、と漏らした呟きに後ろから微かな声が聞こえた。イルカが誤解したのだと解って、カカシは振り向いて笑顔で違うんです、と言った。オレはただ人混みが嫌いなだけで。
私も慣れません、と口元に手を当て傾げた首筋が白く細く、この肌に吸い付いて赤く印を付けたいと、カカシは自分の中の蛇がうごめくのをやっとの思いで押さえ付けた。
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