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式の最中もなかなか泣き止まないイルカは、化粧が全て落ちてしまったから顔が上げられないとまた更に俯く。次第にカカシに寄り添うような姿勢になり、披露宴の終盤にはすっかりカカシの肩でくたくたになっていた。見兼ねた友人がこっそり、隅っこでイルカの化粧直しをしてくれた。腫れぼったい瞼は前髪を下ろして変化をつけて隠した。胸元のコサージュを利用して額に上手に流した髪形は、初めて見たポニーテール以外のイルカだった。馬の尻尾ってこんなに長かったんだ…似合うかも、とカカシは一人で頷く。
漸く落ち着いて隣に戻ってきたイルカの、背中の開いたドレスと肩甲骨とそれを覆う程長い髪を見て、カカシは軽く欲情する自分に焦る。
カカシを見上げてごめんなさいと素直に謝り、まだ震える指先を黙って包み込んだ自分は、イルカに恋をしているとこの時気がついたのだ。
やがて夜の二次会の時間となり、出席する予定だったイルカは泣きすぎて頭痛がすると頭を押さえてソファーに沈み込んだ。でも最後に渡したい物があるから出たいんです。私は大丈夫ですから、カカシ先生はもう帰って頂いても。そう言う声はまだ震えて、放っておける訳ないでしょとまた手を握って、帰りも送らせてほしいとカカシはいつにない真剣さでお願いと、イルカの眼を見つめた。戸惑いながらも、本当はいて欲しかったんですと頬を染め、カカシ先生は優しいとまた俯く。
結局カカシは帰り道、暗いから気にしないでとイルカを抱き上げ、歩けないくせにとちょっと意地悪に明るく振る舞った。イルカもカカシに話を合わせて笑った。そして別れ際に、今日感じたものは勘違いだったかもしれないと二人とも心にしまい込んだ。
そんな想いが色んな場面で積み重なって行くのを、二人のごく近しい幾人かが自覚のない告白として見聞きしていたことを、二人だけが知らなかった。

この髪にもやられちゃったよなぁ。下ろすと色っぽくて、オレ辛かったよ。
イルカの髪が纏わりつくうなじに顔を寄せて、うーこの匂いだよなぁと、カカシは呟いた。イルカがカカシの匂いに慣れたように、カカシもイルカの匂いに慣れてしまっていた。
ホルモンの関係で定期的に匂いが変わることにも気がついた。女性にしかない周期である事をゆうべ、酒席で眠るイルカを抱き込んだ時も確認した。
浅ましい自分が嫌になるが、どうしてもどうしても、この女が欲しい。
鎖で繋ぎ止めたいと、初めて思った。
チャンスだったのだ。強引で我が儘で、なにより卑怯だと思いはするものの、どんな手を使ってもオレだけのものにしたい。
天使を崇めているだけではもう我慢できないと。
雄の本能が、雌の匂いに反応しただけだと、酷いとも思える言い訳を用意しカカシはそれでも、イルカを傷つけたくないと我に還った今、悩んでいる。
只の種付け行為だ。
イルカにオレのこどもを産ませる。
イルカの意思を無視して?
孕んだら必ず産むことになるだろう。忍び同士の子は歓迎されるから。ましてやオレ達の…。
「…イルカ…。」
流されてでもいいからオレの側にいてくれないかなあ。聞くのが怖いけど、どんな答えでも聞かなきゃなんないよね。うん、長期任務を受ける仕度しとくかな。でももう少し、幸せでいさせて。
またうとうとし始めたカカシは、イルカを離すまいと腕に力を込め、首に顔を埋めて左耳のすぐ下、どうにも隠せない柔らかな皮膚を吸い上げた。ささやかな願い。消えて失くなるまで、オレを覚えていて。

ちくりと痛む感覚にイルカは眠りを邪魔されて、覚醒と同時によぎる予感に(確信である筈だ)身体中から汗が吹き出した。
げえぇ寒い筈だよ! アタシ、排卵日じゃない! 忘れてたってばどうしよう! すっごくマズイッ!!
怠さと眠さはそれの影響だった事を思い出し、イルカはこんな時でもカカシを起こさないように静かにのたうちまわる。
生徒には体調管理もくのいちの努めだと教えている。自分の身体は自分で守れと、あまり言いたくないがもしもの時もあるのだから。
はい、私です。悪い見本です。
後ろ指を指されて、イルカ先生のようにならないでねーと言う、同僚教師の声が聞こえそうだ。その先には西瓜のような腹を抱える自分の姿の幻さえ…。ちょっと待て、何でカカシ先生がアタシの幻の隣でこどもを両手に引いてんのよ。何で銀髪と黒髪なのよ。何で双子なのよっ!!
これはやはり風邪なのだと、無理矢理こじつけてイルカは目をつむる。実際発熱はしたらしく、身体が熱くなってきた。何も考えずにまたもや夢の中に沈み込むイルカもカカシの背中に手を回し、お互いまだ片思いだと疑わない(イルカは恋の自覚もないのだが)恋人達は、仲間達のお陰で誰にも邪魔されない一日だったのだ。
結界が破れなくて配達員が困ったというのはご愛嬌。
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