おや、イルカ先生は酔って寝てるのかな。この寒い座敷で、布団もなしに丸くなってる。
風邪をひいたら大変だからベッドへ運んでおこう。今日は先生も仕事は休みだから、仲間達と羽目を外したんだろうね。オレも帰還は今夜の予定だったし。
あ、悪いね。ほったらかすつもりはなかったんだけど、イルカ先生の方が大事だから。
ん? 綺麗に使ってるでしょ。あんたがいなかった三年のうち、後半の半年だけね。貸してくれてありがとう。
…いや実は、イルカ先生はオレがここであんたと暮らしてたって誤解してるんだ。先生の友達がね、変なことを吹き込んでくれてたって判ったんだよ。三日前にね。
いやもう、オレもどうしようかと頭が真っ白になったよね。先生はあんたとオレが付き合ってたって誤解したままで、それなのに口説き落としてからはこの家に半年一緒に住んでくれてたわけじゃない。前の女がいた家なんか冗談じゃないよね、普通は。
可哀想。そうなんだよ、先生がどれだけ我慢してたかって思ったら、オレは自分に雷切をかましたくなったんだよね。
笑うな。元はといえば、あんたがオレを隠れ蓑にしたからだろうが。なんでダミー彼氏なんか引き受けたんだろうねえ、あの時のオレは。
はあ、そりゃ相手が木ノ葉の忍びじゃないからって心配しての事だったけど、打ち明けたら火影様は文句も言わなかったじゃないか。…まあ雷影様もあの頃はうちの里をよくは思ってなかったしね。だからあんたの真剣な気持ちにほだされた事自体は、全然後悔してないよ。
あんたも散々苦労しただろうし…幹部なんかに嫁に行って。
さて旦那さんと子供、そろそろ木ノ葉に着いたかな? 里帰りが嬉しかったからってあんただけ先に来ちゃって、結局ひと晩皆で飲み明かしてさ。言い付けちゃうよ。
子供は二つになったんだっけ。うちの先生って子供が大好きだからねえ、きっと抱いたら離さないよ。え、ちょっと、好都合だって置いてかないでくれ。あんたらが遊び歩いてる間に面倒みてたら、きっと先生は情が湧いて後で苦しむ。うん、どうあがいてもどっちも産めないからね。
痛い、拳骨で殴るな。
…先生の覚悟は知ってるよ。オレの方が時々挫けてる。信頼、はしてるけどね。
だから殴るなって。半端な気持ちで一緒にいるわけないだろ。ちゃんと考えてるから。
ねえちょっと、先生の様子を見てきていい?
イルカ先生お薦めの茶菓子を置いといて部屋をそっと覗くと、先生はダブルベッドを半分空けた定位置に寝ていた。オレの居場所をちゃんと作ってくれて、安心しきって。
気配を読むのに長けていて、しょっちゅうオレの顔色を窺わせてすまないとは思うけど。やっとオレも余裕ができたよ、お待たせ。
あのね、この家を買ったんだ。あいつには結婚祝いも出産祝いもあげてなかったから、ちょっと高めに払ってやったんだけど。
いいよね、数少ない友達なんだから。
でね、そしたらね。
ごめんね、先生に買おうと決めてた指輪が買えなくなっちゃった。
またお金を貯めてからとも思ったけど、今あげなきゃ意味がないからね。気持ちはうんと籠めたから、安くても我慢して欲しいんだ。
ほら、裏には二人の名前を彫らせたの。普通は頭文字だって言われたけどね。
これで先生をオレのものにしたなんて思っちゃいないけど、オレは先生のものになったから。
うん、よく似合う。
先生が驚くか喜ぶか、起きた時が楽しみだよ。…怒らないよね。
あ、あいつの旦那さんと子供が来たみたい。子供に頼んで先生を起こしてもらおうかな。
でね、正式に紹介するんだ。
次期火影の配偶者です、って。
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