演舞。
舞いを舞って見せること。

近隣の国や忍びの里には、歴史伝承の唄や舞いがある。木ノ葉の隠れ里に伝わる舞いは、火影初代と二代目の功績を讃えて作り上げたものだ。
どうやら今はもうこの世にいないとびきりの刀の使い手の先祖辺りが関わっていたらしいと噂に聞くが、さてそれが真実かどうかは親戚縁者も途絶えたその家系に聞くこともならない。
三代目火影が気付いた時にはもうその舞いも音楽も完成され根付いており、祭りの際には神社に奉納されていたらしいということだった。
その後の若き四代目火影は大層風変わりな者だったから、それはとても光栄だから是非忍びも覚えなくてはと、忍びの卵達にそれを必須と課してある年代は徹底的に叩き込まれていた。まあ誰もそれを舞うことはなく、里は未曾有の惨事で舞いという余興の事など忘れ去られてしまったのだが。
五代目の統治の現在、この女傑がどういう切っ掛けでそれを知ったのかは不明だが、お祖父様と大叔父様を讃えるものならば見てみたいと言い出した事から始まって。
叩き込まれた舞いを記憶している、はたけカカシやうみのイルカの年代の忍びは五代目の前で舞いを舞うことになってしまっていた。
「二十代の若者達だ、身体が覚えているだろう。」
頑張れよと激励で肩を叩かれたその勢いに、誰も逆らえはしなかった。
問題は、誰がどう舞うのか。
「そうだな、上忍と中忍とに分かれてみてはどうだ。」
無責任じゃねえかとイルカは心のうちで叫びながら、了解しましたと受付で並んだ机の端を手できつく握ってひきつった笑いを五代目に向けた。

きつい。思うように身体が動かない。
「はい、そこで左足先から円を描いて右肩を後ろに持っていって同時に右足を一歩下げる。切っ先は天に向けて伸ばして!」
踵を上げずに摺り足で、と頭の中で復唱しながら言われた通りに刀を振り上げてはみるが。
この刀はとにかく重い。おまけに忍び刀は反りがないから、ただ振り回すだけだと見た目が美しくない。
手首を柔らかくしならせて身体の前に空気の玉を抱き抱える感じ、と。
「よし、うみの合格。」
肩を叩かれずらりと横に並んだ列から離脱する。脚が縺れて芝生の地面に膝を着いてしまった。
群舞の練習ごときで、なんと情けない。
「お疲れ様。」
頭の上から掛かった声にのろのろと顔を上げれば、カカシ先生がタオルと水を差し出してくれていた。
「ありが、とう、ござい、ます。」
ゆったりとした動きだったのに、どうしてこんなに息が切れるのか。やっぱり鍛えてないのがバレバレだな。
「イルカ先生、綺麗な動きだよね。間が上手い。」
「そうですよね、こいつ一番覚えてるんですよ。」
身を乗り出して話に加わってくるイワシに、カカシ先生がうんと頷いた。
「いや、もう、全然記憶にありませんから。」
遥か昔に教わりはしたが、必要がないからそれきりだったんだけどな。頭が付いていかない。
「あ、やりたくないって思ったでしょ。」
「カカシ先生こそ。」
合格できずにまだ続いている奴らも死にそうな顔をしている。だよな、身体が震えて悲鳴を上げてるのが解る。
「上忍の方も死にかけてるよ。」
カカシ先生が顎で示した先の人々も、何度も同じところで失敗して教官にダメ出しを喰らっているらしい。
いやでも、絶対あっちの方が難しい動きだと思うんだけど。
「なぁに言ってんの、対なんだからたいして変わらないよ。攻守の舞いの繰り返しでしょう。」
そうだ、元々は奉納の為だったんだ。
「でも、群舞はともかくも、初代様と二代目様が刀を交える部分は本番並みの一対一なんですよ。」
上忍対中忍となればきっと比べられて、あまりに劣るようなら十把一絡げで中忍は馬鹿にされる。かといって上手すぎると上忍にへそを曲げられて、先々の任務で私怨をぶちまけられそうで。
「あ、それね、決まったみたい。」
「え?」
「もう?」
カカシ先生の言葉が聞こえた者達が重い身体を引きずりながら集まってきた。
「群舞が一通り終わってから、その動きを見て選抜されるんじゃないんですか?」
まだ練習が始まってから五日だ。群舞だって全部思い出しきれてないのに。
「カカシ上忍は、対の舞い手が誰かはご存じですか?」
「いや、名前は聞いてませんね。」
「やっぱ体術に長けてる奴なんじゃねえかな。」
あいつかなぁとざわつくそこへ集合の笛が鳴り、全員が天へと垂直に腕を上げている者の周りに集まり出した。
体力自慢の数名だけが涼しい顔をしている。その体力分けてもらえねえかなぁ、と思うくらい脚が上がらない。カカシ先生が端から解らないように隣にならんで俺の腕を取り、支えて歩き始めた。
俺はありがとうございます、と頭を下げて好意に甘えた。
ご苦労、といささか上からの労いが掛けられて慌てて頭を下げる。
「当日参加できる予定の者の舞いは、一応全部把握できた。三ヶ月も先の祭りの為に今から練習を始めたのは、全体練習の時間が取れないほど皆が忙しいことを承知しているからだ。」



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