教官の言葉に全員が頷いた。この五日の間には一時間でも練習に参加できるようにと綱手様は多くの任務を調整して下さっていたが、里にいる俺だとて参加できたのは今日で二回目だ。
「中隊で陣を組むつもりで臨めば、群舞はさほど難しくはない。これからの全体練習にあまり参加できずとも、小隊を編成するから各隊で練習すればいい。今から発表する小隊で打ち合わせを怠らないこと。」
なるほど、とそこかしこから声が聞こえる。忍びにその方法はありがたい。
全体で四十人と聞いている。中忍組も上忍組も小隊は四人でそれが五隊で中隊という計算は、最初からそのつもりでいたのだろう。
練習に参加する回数が多い者が小隊長。そんな理由で選出したのかと剣呑な雰囲気も流れたが、これまでの五回皆勤し名を呼ばれた者達を見れば、采配には誰もが納得の面々だった。
では、とひときわ大きく教官の声が響き渡った。アカデミー生のようにぴしりと空気が変わるのが面白い。
「火影様を演ずる代表二名を発表する。まずは…。」
一瞬隣と目を合わせてざわつきながらも、全員の意識が中央に集中する。あーあ、喋っててもいいから生徒もこんな風に聞いてくれてたら楽なんだけど。
「うみのイルカ。」
ん? 俺何かしたか?
「うみの、返事は!」
「はい! うみのイルカ、ここにおります!」
やべえ、生徒の事を考えてちょっと笑ったの見えたか。
「よし、いい返事だ。では二代目火影様の上忍代表。」
あー誰だろ、楽しみだ。
「はたけカカシ。以上、異議は認めない。」
やっぱりな、カカシ先生なら適任だ。あれ、以上って、中忍代表は誰だ?
「イルカ先生、宜しくね。」
すいと隣に来たカカシ先生が俺の手を握って笑ってる。
「イルカ、すげえじゃん。」
「お前、死ぬまでにこれ以上の大任ねえぞ。」
なんだかもみくちゃなのは何故なんだ。
あ、教官が来た。俺、ホントに何かしたか?
「そうだ、お前達は顔見知りだな。やり易いだろう、頼むぞ。」
ん?
カカシ先生を見れば勿論ですと大きく頷き、手を握ったまま俺の肩を抱き寄せた。
訳が解らずカカシ先生の顔を見詰めていればそれに気付いた彼がふわりと微笑み、俺は余計に現状把握が難しくなってしまった。
親しい者達が俺を囲んでめでたいと騒ぐ中、今更何があったのか聞けない俺がいた。まあいいか、そのうち解るだろう。
教官とカカシ先生と俺のスケジュールを擦り合わせると言われ、教官に付いていく。祭りまでの神社の日程表を渡され、また練習参加者の調整かと俺は自然と渋い顔になった。
「うみの、お前はホントに面白い。」
こわもての教官はアカデミー生の頃の俺をよーく知っている。だからふにゃりと力を抜けば、ごりごりと頭を撫でられた。うん、本人は撫でてるつもりだが大きな手で頭蓋骨をがっしりと捕まれて、実はかなり痛いのだ。昔から変わらないなぁ。
「はたけ、こいつを苛めるなよ。」
笑う教官にふんと鼻を鳴らしたカカシ先生は、不機嫌な顔で俺を引き寄せ背中に張り付いた。
「こんなに可愛い人を苛めませんよ。」
教官に乱された俺の髪を撫で付けて、ぐっと睨み返す顔が俺の肩に乗ってるんだけど。何が起こってるんだろう。
宜しく頼むと去っていった教官を見送り、カカシ先生がさあ行きましょうと俺の腕を引いた。
「どちらへ?」
「綱手様のところへ、報告に行きますよ。」
立ち止まったままの俺に、カカシ先生は首を傾げてくすりと笑った。
「イルカ先生って、意外と度胸あるんですね。代表に決まっても全然驚かないんだもの。」
代表? 何の事だ。あ? ああああ!
「いやいや、俺なんか無理です、なんで俺なんですか、なんで俺が代表なんですか!」
教官を追おうとすれば襟首をしっかりと掴まれて、俺は逆方向へ引きずられていくのだった。
「今更無理なんて言ったところで、変更してくれる訳はないんですから。諦めて。」
嬉しそうな顔は何なんですか、カカシ先生。そんなに俺を苛めたいんですかぁ…。
いやカカシ先生がそんな事はしないの知ってるけど、なんで俺と腕を組んではしゃいでるんだろう。舞いなんて手当てが出るんじゃないし、薄給を補う為の任務を減らされてその時間を練習に当てるんだからかえって給料は下がるんだ。俺は困る。
…綱手様の顔を見たらそれも言えなくなったけどな。
「そうか、お前達か。」
執務室の壁の肖像に目をやった綱手様の横顔に、文句を言おうと開いた俺の口はすぐに閉じられた。
初めて見た柔らかな表情は、今にも涙を流すのではないかと思える懐かしそうなもので。
俺は感情に訴えられる事が苦手なんだと、改めて認識して俯いたんだ。
やるしかない…んだろうな。うん、頑張ろう。
「カカシ、棚ぼただな。」
綱手様の言葉は謎だったが。
「私はお祖父様と大伯父様が大好きだった。小さすぎて何をしてもらったかも思い出せないが、大好きだった事だけは覚えているんだ。」
ふっと綱手様が思い出し笑いをした。






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