ふとカカシは思い出した。
恋仲だとふれ回った女は、カカシが倒れても見舞いに来なかった。媚びる女に忍びを引退だと言ってみれば、翌日には他人の顔をされたりもした。
「爺になっても一緒にいてくれるの?」
「貴方が禿げたところを見てみたいです。」
「禿げ確定?」
「きっと心労で。ま、俺も更に色々な心労で禿げ確定ですよ。」
そうは言っても想像がつかなくて、ただ二人は笑うだけ。
「イルカは真っ白になるんじゃないかな。」
「カカシさんは白髪でも、多分今と変わらないから悔しい。」
「酷いな、理不尽じゃない。」
イルカはどんな容姿でも、例え肩書きがなくても一人の人としてカカシを見てくれる。
些細なやり取りが嬉しくて、カカシは浮かれていた。だがイルカは反対に、寂しげな笑みを見せて沈み込む。
カカシと共に歩む事が怖い。決心はしたが、平凡でつまらないと自分の元を去った女の目を思い出したからだ。もしもカカシも飽きたら―とそよ風のような思いが胸に大きな波紋を広げた。
だけど。
イルカが笑えば、カカシも応えて笑ってくれるではないか。カカシの気持ちを知らずにいた今朝まで、どんな自分を見せてもずっと愛してくれていたではないか。
何を馬鹿な事を考える。命を掛けて愛を捧げられる相手を得たのだから、心迷い揺るがせて自ら手放す事だけはしない。
イルカは心の黒い塊を蹴散らし、大きなあくびをして首の凝りをほぐすカカシの背中に抱き着いた。
「カカシさん、好き。」
「えっ、いきなりどうしたの?」
驚いたカカシだが早く帰りたいと甘く言われて、その晩は寝ずにこっそり巻物を読んで仕事を進めたのだった。
予定通りに終わらせる事ができた。二人だけで帰りたかったが行きの倍の人数で迎えに来て、火影は護衛なしで動いてはいけないと気色ばむ暗部をカカシも断りきれない。
いたたまれないのはイルカだけ。カカシがイルカの肩を抱いて、二人にしてくれと頼むと何も聞こえない距離から見守りますと暗部は颯爽と散った。
皆が少しの動揺もしないからイルカは返って居心地が悪く、羞恥心全開で道中カカシの顔も見られなかった。どうしてこうなった、と詰め寄られた方がそうだよなと納得できた位だ。
報告しようとカカシが言うまでもなく、綱手は阿吽の門で待っていた。
「お疲れさん。大分収穫はあったようだな。」
「ええ、俺が報告した通りです。」
「カカシの報告通りなら、万事良しとしよう。」
からからと笑う女傑に、呪術の件を指すだけではないと気付きイルカは真っ赤になる。
「綱手様は、いつからご存知でした?」
カカシの問いに、何の事だととぼける顔が憎らしい。
「何年お前らを見てきたと思ってるんだ。」
踵を返し賭場に行くぞとシズネを従える綱手に、二人は顔を見合わせて敵わないねと頭を下げた。
「イルカはアカデミーに?」
「そうですね、一応俺は管理職なので顔を出します。」
名目上の校長は火影だが教育の事は何一つ解らないからとカカシが丸投げし、校長としての実務はイルカが行うようにとされた。
本当はアカデミー教師一本でいさせたいけれど、こっちも困るからねえ。と悩むカカシに、イズモとコテツが妥協案を出した結果だ。
その二人だとて、イルカは自分達以上に良く執務を知るからゆくゆくはカカシ専属にしたいと画策している。
「カカシさん、今夜は…。」
おずおずとイルカが切り出し、カカシも家に行くと言う為に口を開いた途端にわらわらと集まるのは双方の帰還を待ちわびていた者達だ。
滞っていた決済やらの、書類を突き付けたくて我先にと話し掛ける。
「明日、新居に来て。」
それだけ言うと、カカシは差し出される書類を読みながら去っていった。
イルカも背を押されながら、アカデミーに向かう。
同時に振り向いて視線で愛を交わすと、それだけで力が湧いてくる不思議を二人は噛み締めた。
カカシは昼をとるからと言い、執務室から逃げた。イルカもカカシに呼ばれていると、アカデミーを抜け出した。
カカシが言うとおり、庵は茅を葺き直して古いながらも小綺麗になっていた。
「三代目がここに逃げたのも解るなあ。」
石庭を眺めたカカシは、ぐったりとしてイルカの背に身体を預けた。
「でしょう? いい買い物をしましたね。」
「それがね。今日庭師や大工さんの請求書を探したら、既に綱手様が支払いをなさった領収書があってね。」
「綱手様が?」
驚きに目を丸くするイルカにちゅうと口付けて、ふわりとその身体を抱く。カカシの照れた顔が、イルカにはまた驚きだ。
「ゲンマがさ、火影にお祝いをとか言って寄付を募ったらしい。」
「寄付?」
「新婚さんにお祝いだって。」
しんこん、と呟いたイルカが手で口を押さえた。
恋仲だとふれ回った女は、カカシが倒れても見舞いに来なかった。媚びる女に忍びを引退だと言ってみれば、翌日には他人の顔をされたりもした。
「爺になっても一緒にいてくれるの?」
「貴方が禿げたところを見てみたいです。」
「禿げ確定?」
「きっと心労で。ま、俺も更に色々な心労で禿げ確定ですよ。」
そうは言っても想像がつかなくて、ただ二人は笑うだけ。
「イルカは真っ白になるんじゃないかな。」
「カカシさんは白髪でも、多分今と変わらないから悔しい。」
「酷いな、理不尽じゃない。」
イルカはどんな容姿でも、例え肩書きがなくても一人の人としてカカシを見てくれる。
些細なやり取りが嬉しくて、カカシは浮かれていた。だがイルカは反対に、寂しげな笑みを見せて沈み込む。
カカシと共に歩む事が怖い。決心はしたが、平凡でつまらないと自分の元を去った女の目を思い出したからだ。もしもカカシも飽きたら―とそよ風のような思いが胸に大きな波紋を広げた。
だけど。
イルカが笑えば、カカシも応えて笑ってくれるではないか。カカシの気持ちを知らずにいた今朝まで、どんな自分を見せてもずっと愛してくれていたではないか。
何を馬鹿な事を考える。命を掛けて愛を捧げられる相手を得たのだから、心迷い揺るがせて自ら手放す事だけはしない。
イルカは心の黒い塊を蹴散らし、大きなあくびをして首の凝りをほぐすカカシの背中に抱き着いた。
「カカシさん、好き。」
「えっ、いきなりどうしたの?」
驚いたカカシだが早く帰りたいと甘く言われて、その晩は寝ずにこっそり巻物を読んで仕事を進めたのだった。
予定通りに終わらせる事ができた。二人だけで帰りたかったが行きの倍の人数で迎えに来て、火影は護衛なしで動いてはいけないと気色ばむ暗部をカカシも断りきれない。
いたたまれないのはイルカだけ。カカシがイルカの肩を抱いて、二人にしてくれと頼むと何も聞こえない距離から見守りますと暗部は颯爽と散った。
皆が少しの動揺もしないからイルカは返って居心地が悪く、羞恥心全開で道中カカシの顔も見られなかった。どうしてこうなった、と詰め寄られた方がそうだよなと納得できた位だ。
報告しようとカカシが言うまでもなく、綱手は阿吽の門で待っていた。
「お疲れさん。大分収穫はあったようだな。」
「ええ、俺が報告した通りです。」
「カカシの報告通りなら、万事良しとしよう。」
からからと笑う女傑に、呪術の件を指すだけではないと気付きイルカは真っ赤になる。
「綱手様は、いつからご存知でした?」
カカシの問いに、何の事だととぼける顔が憎らしい。
「何年お前らを見てきたと思ってるんだ。」
踵を返し賭場に行くぞとシズネを従える綱手に、二人は顔を見合わせて敵わないねと頭を下げた。
「イルカはアカデミーに?」
「そうですね、一応俺は管理職なので顔を出します。」
名目上の校長は火影だが教育の事は何一つ解らないからとカカシが丸投げし、校長としての実務はイルカが行うようにとされた。
本当はアカデミー教師一本でいさせたいけれど、こっちも困るからねえ。と悩むカカシに、イズモとコテツが妥協案を出した結果だ。
その二人だとて、イルカは自分達以上に良く執務を知るからゆくゆくはカカシ専属にしたいと画策している。
「カカシさん、今夜は…。」
おずおずとイルカが切り出し、カカシも家に行くと言う為に口を開いた途端にわらわらと集まるのは双方の帰還を待ちわびていた者達だ。
滞っていた決済やらの、書類を突き付けたくて我先にと話し掛ける。
「明日、新居に来て。」
それだけ言うと、カカシは差し出される書類を読みながら去っていった。
イルカも背を押されながら、アカデミーに向かう。
同時に振り向いて視線で愛を交わすと、それだけで力が湧いてくる不思議を二人は噛み締めた。
カカシは昼をとるからと言い、執務室から逃げた。イルカもカカシに呼ばれていると、アカデミーを抜け出した。
カカシが言うとおり、庵は茅を葺き直して古いながらも小綺麗になっていた。
「三代目がここに逃げたのも解るなあ。」
石庭を眺めたカカシは、ぐったりとしてイルカの背に身体を預けた。
「でしょう? いい買い物をしましたね。」
「それがね。今日庭師や大工さんの請求書を探したら、既に綱手様が支払いをなさった領収書があってね。」
「綱手様が?」
驚きに目を丸くするイルカにちゅうと口付けて、ふわりとその身体を抱く。カカシの照れた顔が、イルカにはまた驚きだ。
「ゲンマがさ、火影にお祝いをとか言って寄付を募ったらしい。」
「寄付?」
「新婚さんにお祝いだって。」
しんこん、と呟いたイルカが手で口を押さえた。
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