唐突ですが夜との出会いが一番知りたい事でしょうから、とイルカがふんわりと微笑み掛ける。カカシは好奇心を見透かされ、ええまあと曖昧に笑い返して頭を掻いた。
「両親が亡くなってちょうど十年たった頃でしたが、夜の存在を聞いた覚えが全くなかったので俺はただただ驚きました。」
他人に両親の話をするのは何年振りだろう。イルカは両手の傷を擦りながら、僅かに疼く胸をそっと押さえた。
「上忍の両親は九尾の襲撃の際に亡くなりましたが、夜と契約していた母がその前日に三代目に夜を俺に渡す時期を相談に行っていたという事です。」
「ご両親は上忍だったんですか。」
呟いたカカシに俺はこんなもんですけどね、と自分を卑下したイルカが肩を竦めておどけてみせた。
「一度預かろうかとなって、九尾の騒ぎに紛れてそのまま忘れてしまったと三代目に謝られました。俺がハタチになったその日に巻物が出てきて、きっと偶然ではないと仰るのでありがたく受け取りました。」
三代目の元は気持ちがよくてうっかり寝過ごした、なんて夜は言うんですよ。
思い出し笑いをする穏やかな表情のイルカに、カカシは少しばかり動揺していた。
確かに自分はイルカの秘密を知りたいとは思ったが、火影も絡むというのにこうもあっさり曝け出して良いのだろうか。
だがイルカと深く関わる事に後悔はない、それだけは確信を持って頷ける。
共犯者―ふと思い浮かんだ言葉がカカシにはとても魅力的に思えてきた。夜はカカシを巻き込みたかったらしいとイルカが言っていたのだ、ならば夜のお望み通り毒を食らわば皿までも。
「来ましたね。」
さやさやと吹く風に乗った声と人の気配に、二人は口を閉じて一点を凝視した。暗闇に白衣が幾つも翻る。
「夜?」
イルカが小声で呼んでも姿はない。またか、と諦めた笑いを溢す。
「三代目にご褒美を何か貰って、そのままうちに帰って寝てるでしょう。他人に姿を見られたくないし、仕事が終われば俺を主人扱いしませんからね。」
ここですと手を振り合流すると、イルカは白衣達に状況の説明を始めた。
カカシは本来部外者だからこの場にいては不味いだろう。けれどイルカとは離れがたく、また夜にも会いたかった。
「カカシ先生、報告は終わりましたがお話しなさいますか。」
そちらを見れば軽々と熊を担ぐ大男を先頭とし、 白衣達は引き上げ始めていた。
顔も知らない奴らばかりだし、そいつらに興味はない。いえと首を振りイルカに向き直る。
「ねえイルカ先生、足の裏は痛くないですか。」
あ、と片足ずつ上げて確かめた傷だらけの足の裏には血が滲んでおり、サンダルを脱ぎ捨てた場所まで裸足で戻るのかとイルカはあからさまに嫌な顔をした。
「んーまあ、チャクラで身体を浮かせて移動できますから平気ですよ。」
「そうでしたね、先生と呼んでおきながら馬鹿にしたような事を言ってしまいました。」
全てゼロから始める子供さえいるアカデミーで、イルカはちゃんとした下忍候補まで育て上げる教師だ。きっと戦い方も毅然としているだろう、機会があればともに任務に就いてみたい。
確実な足取りで樹上を走る後ろ姿を追いながら、カカシは人知れず笑みを浮かべてイルカを見詰めていた。
山裾に戻れば、空の色が僅かに白み始めていた。二人とも通常の任務が待っているから、少しでも眠っておかなければならない。
「夜に会いたいけどもうこんな時間ですから、また今度ゆっくり会わせてくれませんか。」
「はい、汚ないアパートですが是非いらして下さい。」
誰にも見られずに夜に会おうとすれば、他に方法はない。他人を招くのはあまり好きではないが、夜もカカシに会いたがる筈だ。
イルカは浮き浮きとしている自分に驚いた。一体どうしたんだ、ぼろぼろと秘密を明かしてカカシ先生を巻き込んで。
夜なら答えを教えてくれるかな、とイルカは高鳴る胸を撫でてゆっくり息を吐いた。
じゃあお休みなさい、と別れて二人はそれぞれ帰宅する。だが眠くても眠れない。
それぞれ考えるのは熊の事ではなく、一気に関係の深まった相手の一挙手一投足。
カカシは枕元の七班の記念写真を見ながら、イルカは巻物に戻せなかった夜を抱いて、ただ身体を休ませているだけだった。
数時間後、カカシは遅刻をせずに現れて子供達を大層驚かせた。だが今日の任務は一日掛かるからだよと殊勝に言っても、結局見ているだけのカカシの途切れぬ欠伸に夜遊びしたかと憤怒は納まらなかった。
イルカの方は夜を使った事により底をついた体力が、一睡もできなかった為に全く回復できなかった。授業中も立っていなければ一瞬で眠りに落ちそうで、休み時間の度に顔を洗ってどうにか夕方までを乗りきった。
今夜、と報告書の受け渡しで微笑みあって闇に紛れて。
「両親が亡くなってちょうど十年たった頃でしたが、夜の存在を聞いた覚えが全くなかったので俺はただただ驚きました。」
他人に両親の話をするのは何年振りだろう。イルカは両手の傷を擦りながら、僅かに疼く胸をそっと押さえた。
「上忍の両親は九尾の襲撃の際に亡くなりましたが、夜と契約していた母がその前日に三代目に夜を俺に渡す時期を相談に行っていたという事です。」
「ご両親は上忍だったんですか。」
呟いたカカシに俺はこんなもんですけどね、と自分を卑下したイルカが肩を竦めておどけてみせた。
「一度預かろうかとなって、九尾の騒ぎに紛れてそのまま忘れてしまったと三代目に謝られました。俺がハタチになったその日に巻物が出てきて、きっと偶然ではないと仰るのでありがたく受け取りました。」
三代目の元は気持ちがよくてうっかり寝過ごした、なんて夜は言うんですよ。
思い出し笑いをする穏やかな表情のイルカに、カカシは少しばかり動揺していた。
確かに自分はイルカの秘密を知りたいとは思ったが、火影も絡むというのにこうもあっさり曝け出して良いのだろうか。
だがイルカと深く関わる事に後悔はない、それだけは確信を持って頷ける。
共犯者―ふと思い浮かんだ言葉がカカシにはとても魅力的に思えてきた。夜はカカシを巻き込みたかったらしいとイルカが言っていたのだ、ならば夜のお望み通り毒を食らわば皿までも。
「来ましたね。」
さやさやと吹く風に乗った声と人の気配に、二人は口を閉じて一点を凝視した。暗闇に白衣が幾つも翻る。
「夜?」
イルカが小声で呼んでも姿はない。またか、と諦めた笑いを溢す。
「三代目にご褒美を何か貰って、そのままうちに帰って寝てるでしょう。他人に姿を見られたくないし、仕事が終われば俺を主人扱いしませんからね。」
ここですと手を振り合流すると、イルカは白衣達に状況の説明を始めた。
カカシは本来部外者だからこの場にいては不味いだろう。けれどイルカとは離れがたく、また夜にも会いたかった。
「カカシ先生、報告は終わりましたがお話しなさいますか。」
そちらを見れば軽々と熊を担ぐ大男を先頭とし、 白衣達は引き上げ始めていた。
顔も知らない奴らばかりだし、そいつらに興味はない。いえと首を振りイルカに向き直る。
「ねえイルカ先生、足の裏は痛くないですか。」
あ、と片足ずつ上げて確かめた傷だらけの足の裏には血が滲んでおり、サンダルを脱ぎ捨てた場所まで裸足で戻るのかとイルカはあからさまに嫌な顔をした。
「んーまあ、チャクラで身体を浮かせて移動できますから平気ですよ。」
「そうでしたね、先生と呼んでおきながら馬鹿にしたような事を言ってしまいました。」
全てゼロから始める子供さえいるアカデミーで、イルカはちゃんとした下忍候補まで育て上げる教師だ。きっと戦い方も毅然としているだろう、機会があればともに任務に就いてみたい。
確実な足取りで樹上を走る後ろ姿を追いながら、カカシは人知れず笑みを浮かべてイルカを見詰めていた。
山裾に戻れば、空の色が僅かに白み始めていた。二人とも通常の任務が待っているから、少しでも眠っておかなければならない。
「夜に会いたいけどもうこんな時間ですから、また今度ゆっくり会わせてくれませんか。」
「はい、汚ないアパートですが是非いらして下さい。」
誰にも見られずに夜に会おうとすれば、他に方法はない。他人を招くのはあまり好きではないが、夜もカカシに会いたがる筈だ。
イルカは浮き浮きとしている自分に驚いた。一体どうしたんだ、ぼろぼろと秘密を明かしてカカシ先生を巻き込んで。
夜なら答えを教えてくれるかな、とイルカは高鳴る胸を撫でてゆっくり息を吐いた。
じゃあお休みなさい、と別れて二人はそれぞれ帰宅する。だが眠くても眠れない。
それぞれ考えるのは熊の事ではなく、一気に関係の深まった相手の一挙手一投足。
カカシは枕元の七班の記念写真を見ながら、イルカは巻物に戻せなかった夜を抱いて、ただ身体を休ませているだけだった。
数時間後、カカシは遅刻をせずに現れて子供達を大層驚かせた。だが今日の任務は一日掛かるからだよと殊勝に言っても、結局見ているだけのカカシの途切れぬ欠伸に夜遊びしたかと憤怒は納まらなかった。
イルカの方は夜を使った事により底をついた体力が、一睡もできなかった為に全く回復できなかった。授業中も立っていなければ一瞬で眠りに落ちそうで、休み時間の度に顔を洗ってどうにか夕方までを乗りきった。
今夜、と報告書の受け渡しで微笑みあって闇に紛れて。
スポンサードリンク