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二十四

青山の計画通りに、森村が妻子と共に疫病で亡くなりその場で荼毘に伏された、とイルカが訃報を町に持ち帰ったのは冬休みが終わる前日だった。
むかいはあの日夜遅くに里に戻った。昼間の内に町の様子を見て町田に変化したひかりが上手く立ち回っている事が確認でき、森村は妻子に会いに行くとの情報を買い物ついでに流した、と綱手に報告する為に。
漸く日常生活に戻れたイルカはチャクラが回しきれずに時折ふらつく姿に臨場感が出て、森村の件に奔走して疲労困憊だと見られていた。
ひかりの変化はほぼ完璧で、多少のボロは森村が亡くなった事に慌てる教師達には気付かれない。
職員室では生徒達のショックをいかに和らげるかと会議が設けられ、結局ありのままに話すしかないという結論に至った。
町田に変化したひかりが、青山を交えてこれからの計画を練る為にイルカを誘う。
「荒波先生、今夜。」
「はい、伺います。」
「おや、こちらは相変わらずお熱い事で。」
血生臭い任務の後始末の計画なのだが、とイルカは苦笑する。
「三ヶ月間町田先生が森村先生の後に入るので、カリキュラムの見直しです。」
「またまたぁ、隠さなくてもいいのに。」
カカシの叱咤で忍びとしての自分を取り戻せたし、勘違いも利用できるならば使おう。とイルカは曖昧に笑った。
さて、と机の上を片付けながら決意したイルカは校長の元へ向かう。
「校長先生、こんな時ですが来年度の事を…。」
残りたいと言うつもりだった。独断だが誠意を籠めて説得すれば里は、いや綱手は納得してくれるだろうと。
「荒波先生、実は青山さんからさっきお話がありまして。」
奥様が元は教師で、荒波先生とは一時期ご一緒だったそうで。とにこやかな校長に、森村の後任にひかりを据えるつもりなのだとイルカは一瞬で理解した。
やられた、とひかりを探したが既に帰宅した後だった。
「荒波先生が森村先生の事で手一杯だからという訳で、町田先生から残念ともめでたいとも言えるお話を伺いました。私も今日は気持ちが下がって上がって大変です。」
「何を…ですか。」
ひかりはイルカに何も言っていなかった。里から何か変更の知らせが来たのだろうか。
「町田先生と結婚して火の国に戻られるのでしょう?」
今さっき頃合いを見計らったか学校宛てに火の国から、人手不足の為という理由でイルカの帰還要請の書状が届いたらしい。偽造にしても教頭クラスの待遇とは、流石綱手は抜かりない。
「私が町田先生の代わりに校長兼任で現場復帰です。生徒数が少ない利点ですなあ。」
嬉しそうに話す校長の顔を見て、完全に道を絶たれたとイルカは下を向いた。
里には帰りたい、けれどまだカカシの顔を見るのが辛い。
「荒波先生にはずっといて欲しかったのですが、貴方のような素晴らしい方がこんな田舎に埋もれるのは勿体無い事です。」
書状の効果はてきめんだった。これ以上話しても無駄だ、とイルカは校長の前から辞した。もしかしたら精神的操作もされているかもしれないと、仲間を疑ってしまう。

「いらっしゃい、荒波先生。」
荒波と呼ぶのは町田桔梗に変化したままのひかりだ。
イルカが玄関を閉めた途端に結界が発動した。これには誰かが不意に訪問した時の幻術も仕込まれている。この町では鍵など掛ける家は殆どない。
「ひかり先生、何故そうまでして俺を里に帰そうとするんです?」
ハート模様のミニテーブルを挟み、イルカは町田の姿のひかりを睨む。
「貴方は私のこの姿を見てどう思う?」
質問に質問で返された。
「町田先生はもう居ないんだなあって、ちょっと胸が痛みます。」
正直に言えばひかりはにこりと笑って姿を戻した。
「それだけね。じゃあそれが答えよ。」
謎掛けではないだろうが、イルカには訳が解らない。
「ごめんなさいね、勝手に筋書きを変えて。」
ことりと置かれた湯飲みは、荒波用として町田が買い置いた物ではなかった。
青いさざ波が一周し、小さく海鳥が数羽飛んでいる。これは、アカデミーに置いてきた自分の湯飲みだ。処分された筈ではなかったか。
「イルカ先生が幾つか置いていった物は、全てはたけ上忍が持ち帰ったの。」
イルカの机に集められた廃棄予定のカカシからの贈り物。数本の異国の模様のボールペン、硝子のイルカの文鎮、他にも出てきた思い出を紙箱に突っ込んで逃げた。
「な、んで…。」
「本人に聞いてみたら?」
「…無理です。」
嫌われているのに。
あの人は、傷をほじくり返して血まみれの俺を見たいのか。
「彼、まだいるんでしょ。」
まだ本調子でないからと、カカシは教職員の緊急召集に学校まで隠れて付いてきた。それは任務だからだと言えば。
「逃げるな。」
咄嗟に振り向いた。
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