4

4 イルカ
餡蜜スペシャル二段重っていうのは、二段の金蒔絵の重箱に餡蜜が入っている、一日限定十食のまさにスペシャルなのだ。オレはまだ食べたことが無いが、アンコさんのお墨付きなので一度食べてみたかったのだ。しかもタダだという、何を聞かれても答えてしまうだろう。
暫くしてオレの前に置かれた重箱にはオマケとしてアイスクリームが盛られ、クリーム餡蜜スペシャルとなっていた。この時オレは、見えない尻尾を振っていただろう。もう何でも聞いて下さい、オネーサマ方!
鋼糸を解いてもらい、オレは早速いただいた。
カカシさんが家で待っている事は既に頭から消えていた。美味しい…ただそれだけしかなかった。
ほぼ食べ終わったところで、取り囲む面々から矢継ぎ早に質問が飛び、オレは一つ一つに答えていった。
「知り合ったのはいつ何処で?」
「カカシさんが上忍師として紹介された時かと思ってましたが、その前に受付や里外任務で会っていたらしいです。」
「いつから気にしだしたの?」
「オレは徐々にって感じなので、気がついたらカカシさんが側にいました。」
「カカシから告白されたわけ?」
「んー、はい! 飲みに行って…二回目だったかな。」
「お持ち帰り?」
「あー、あー、えー、はい…。」
「きゃー! 聞いた? ねー! お持ち帰り、されちゃったってー!」
「きゃー!」
「ほんとー?」
「もっと聞かせてー!」
「その時ヤラレちゃったの?」
「イルカ先生がヤッタとか?」
「言いなさいっ!」
「あうっ…はい、そうです!」
オレは思わず腰を押さえながら返事した。
「あらっ! 正直に答えてくれて有り難う!」
「見たわよ今の、イルカ先生下だったのね!!」
「やっぱり、カカシの奴…いっぺんシメようよ。」
不穏な空気を感じたオレは、少し緊張し始めた。
「シメ…?」
「あらごめんなさい、昔の遊び仲間なのよ、私達。カカシやアスマなんかともよく遊んだわよねー。」
同意を求めて、ねーと首を傾げながら楽しそうに皆でうなづく。
「遊ぶって何をしてですか?」
恐る恐るという聞き方になってしまうのは、仕方ないよな。
「若かったからねー、実戦じゃ出来ない事を試してみたり、まあ色々よ。」
「ほらイルカ、何回かあんたに試した事あったじゃない。覚えてない?」
「あれは、遊びじゃないだろうが…。」
オレは絶句した。ありとあらゆる術比べ、新薬の実験など、今のオレの根性はあれで養ったといっても過言ではないと思う。
「でもイルカったら頭いいし、結構強くて引っかかんなくてね。代わりにカカシを風の国に送ったのよねー。」
「あ、知ってる! その時アタシも暇だから見に行ってたの。この子に応戦してたあれイルカ先生だったの、かっこよかったわよぉ。」
オレの背中を冷や汗が流れていく。あーあ、スペシャル全部食べちゃったよ…どうしよう。帰りたいよぉ…カカシさぁん、助けてぇ…。
呼べば応えるカカシさんの腕が、オレの首の後ろから回り抱き着いてくる。くっついた身体の温かさに緊張も解け、オレは振り向き笑顔を見せた。
「イルカ先生駄目でしょ、寄り道はしちゃいけないって生徒に言ってる癖に。」
拗ねたように優しく、しかしいつもよりじっとりと低い声で囁かれ、オレはまたいらぬ緊張を強いられた。
「あらカカシ、久し振り。何、また遊んでくれる気になった?」
奥さぁん、やめて下さいよー…。
オレは半泣きだったかもしれない。結界を張った気配がしたからだ。
この人達、皆仲間って言ってたから、一般人だと思ってたあの人もアカデミーは卒業してるんだよな。いやさっきの話では『遊んだ』って、術はともかく新薬が手に入るのは下忍からだから、と考え込んでいたらオレの頭の上で話は進んでいた。
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