十二
朝御飯の米と味噌汁に海苔や納豆まで付くとは思わなかった、とカカシはにやにやしていた。
「何か新婚気分だよ。」
食後のお茶を啜りながら、愛読書のお気に入りの場面になぞらえたカカシは、洗い物の手を止め耳を赤く染めたイルカを見た。
「イルカ先生、どうしたの。」
「いえ、遅刻しますから行きましょうか。」
「ああ、寛ぎすぎてごめんね。」
カカシを追い出し一緒に、というより先にずんずん歩くイルカの耳は赤いままだ。声を掛ける雰囲気ではなく、カカシは距離を開けられないように付いていくだけだった。
あっという間に職員室に着いて、よそよそしくイルカは中に入ってしまった。初めての事だ。
「今度はオレが何かやったかねえ。」
上忍待機所で悩むカカシに、紅は聞いてみなさいよと生菓子を突き付けた。
「これイルカの大好物よ。」
「ありがと、て何でそんな事知ってんのさ。」
それも聞いてみたらぁ、と紅は楽しそうに任務に出た。
カカシの連日の夜間任務は里の見回りで、それも病欠の代理だった。そいつも明日は復帰だと、寝不足気味なこの数日の終わりにほっとする。
ところが何処かの内偵者と鉢合わせ、それが町なかの住宅街だったので忍術は使えず、内偵者を捕らえたもののカカシも手裏剣でほんの小さな怪我をした。
引き継いで深夜に帰宅し、カカシが汚れた服を脱いでいたところにイルカが飛び込んできた。
「カカシさん、怪我したって!」
きょとんと立ち尽くすカカシに良かった、とイルカが力一杯抱き着いた。顔をカカシの肩に伏せて何度も良かったと繰り返したイルカは、ごしごしと目を擦る。
カカシは見た事のないイルカの様子に驚くばかりだった。
「で、でもね怪我といっても、」
「見せてっ。」
イルカの剣幕におののきながら此処、とカカシが指さしたのは右の頬に手裏剣が掠った一本の切り傷だった。
「嘘、だって隣の奴が大騒ぎするから…。」
隣の部屋の知り合いが、帰宅したイルカにわざわざ教えるからには大変な事だと思ったのだ。
「この通り、他には怪我はないけど。」
カカシは着替えの最中で上半身は裸だ、くるりと回って見せるとイルカは納得して大きく息をついた。
「心配してくれたんだ、ありがとう。」
「カカシさん。」
「ね、オレの呼び方変わったね。」
「それは…恋人の振りだから。」
当たって砕けろ、どうせ真実を話すつもりだったからとカカシはイルカを追い詰める。壁際へ一歩二歩、イルカの両脚の間に片脚を踏み込んだ。
「オレ、最初から貴方が好きであんな事を頼んだんです。これが答え。」
「じゃあ、女性を追い払うとか、結婚の話とかは嘘だったんですか。」
睨み付けるイルカの両手首を拘束し、カカシは鼻が触れる程顔を近付ける。
「概ね本当。切羽詰まってはいなかったけど。」
切羽詰まっていたのはイルカに対して。
こんな風にとイルカの唇に齧り付き、怒りにわななき開いたままの口の中へ舌を差し入れた。
暴れだすイルカを壁に押し付け、カカシは口内を貪る。歯肉や上顎を舌先でなぞればイルカの力が抜け、膝が折れて身体が下がっていく。
カカシは口付けたまま、イルカの股の間の脚で股間を刺激した。また暴れだすイルカだが、繰り返される刺激に耐えられず力は完全に抜けた。
その身体を抱きとめ、カカシはイルカの耳に囁いた。
「男じゃ嫌かな。感じない?」
「狡い、そんな。」
潤んだ目のイルカが拒否しないからと、カカシは先を続ける事にした。
耳朶を舐め鎖骨へと舌を這わしながら、寛いでいたままで飛び出してきただろう薄い部屋着の胸をひと撫でした。
その手は裾からじかに肌へと触れてゆき、汗ばみ始めた身体をゆっくりと味わう。
「嫌われたくなくて、ずっと側にいたくて、でも貴方を騙しているのが辛くて。」
打ち明けて終わりにしようと思った。
「嫌でしょう、気持ち悪いでしょう、だからオレを嫌いだと言って。」
引導を渡して。
カカシが手を離すと脚が支えきれず、ずるずるとイルカの身体が落ちる。カカシも膝を着き、二人共座り込んだがお互いに視線は別を向く。
「俺は、上役に失礼ですがカカシさんは親しい男友達だと、」
言葉が途切れ、続きを言おうと口を開くが出るのは嗚咽ばかりで、イルカは顔を手で覆って身体を丸めた。
カカシはゆっくりと立ち上がり、イルカに背を向けた。
「此処も他里の奴らに知られたし、ちょうどいいから引っ越すよ。また長期に出されるみたいだし。」
幕引きだ。任務に伴いイルカの前から消えても不思議はない。
「無駄です、そんな事じゃ終わらない。」
カカシが振り向くと、イルカが鼻水を啜り涙が顎から流れ落ちるままに顔を上げた。
「半年待ったから、この先何年でも同じです。」
朝御飯の米と味噌汁に海苔や納豆まで付くとは思わなかった、とカカシはにやにやしていた。
「何か新婚気分だよ。」
食後のお茶を啜りながら、愛読書のお気に入りの場面になぞらえたカカシは、洗い物の手を止め耳を赤く染めたイルカを見た。
「イルカ先生、どうしたの。」
「いえ、遅刻しますから行きましょうか。」
「ああ、寛ぎすぎてごめんね。」
カカシを追い出し一緒に、というより先にずんずん歩くイルカの耳は赤いままだ。声を掛ける雰囲気ではなく、カカシは距離を開けられないように付いていくだけだった。
あっという間に職員室に着いて、よそよそしくイルカは中に入ってしまった。初めての事だ。
「今度はオレが何かやったかねえ。」
上忍待機所で悩むカカシに、紅は聞いてみなさいよと生菓子を突き付けた。
「これイルカの大好物よ。」
「ありがと、て何でそんな事知ってんのさ。」
それも聞いてみたらぁ、と紅は楽しそうに任務に出た。
カカシの連日の夜間任務は里の見回りで、それも病欠の代理だった。そいつも明日は復帰だと、寝不足気味なこの数日の終わりにほっとする。
ところが何処かの内偵者と鉢合わせ、それが町なかの住宅街だったので忍術は使えず、内偵者を捕らえたもののカカシも手裏剣でほんの小さな怪我をした。
引き継いで深夜に帰宅し、カカシが汚れた服を脱いでいたところにイルカが飛び込んできた。
「カカシさん、怪我したって!」
きょとんと立ち尽くすカカシに良かった、とイルカが力一杯抱き着いた。顔をカカシの肩に伏せて何度も良かったと繰り返したイルカは、ごしごしと目を擦る。
カカシは見た事のないイルカの様子に驚くばかりだった。
「で、でもね怪我といっても、」
「見せてっ。」
イルカの剣幕におののきながら此処、とカカシが指さしたのは右の頬に手裏剣が掠った一本の切り傷だった。
「嘘、だって隣の奴が大騒ぎするから…。」
隣の部屋の知り合いが、帰宅したイルカにわざわざ教えるからには大変な事だと思ったのだ。
「この通り、他には怪我はないけど。」
カカシは着替えの最中で上半身は裸だ、くるりと回って見せるとイルカは納得して大きく息をついた。
「心配してくれたんだ、ありがとう。」
「カカシさん。」
「ね、オレの呼び方変わったね。」
「それは…恋人の振りだから。」
当たって砕けろ、どうせ真実を話すつもりだったからとカカシはイルカを追い詰める。壁際へ一歩二歩、イルカの両脚の間に片脚を踏み込んだ。
「オレ、最初から貴方が好きであんな事を頼んだんです。これが答え。」
「じゃあ、女性を追い払うとか、結婚の話とかは嘘だったんですか。」
睨み付けるイルカの両手首を拘束し、カカシは鼻が触れる程顔を近付ける。
「概ね本当。切羽詰まってはいなかったけど。」
切羽詰まっていたのはイルカに対して。
こんな風にとイルカの唇に齧り付き、怒りにわななき開いたままの口の中へ舌を差し入れた。
暴れだすイルカを壁に押し付け、カカシは口内を貪る。歯肉や上顎を舌先でなぞればイルカの力が抜け、膝が折れて身体が下がっていく。
カカシは口付けたまま、イルカの股の間の脚で股間を刺激した。また暴れだすイルカだが、繰り返される刺激に耐えられず力は完全に抜けた。
その身体を抱きとめ、カカシはイルカの耳に囁いた。
「男じゃ嫌かな。感じない?」
「狡い、そんな。」
潤んだ目のイルカが拒否しないからと、カカシは先を続ける事にした。
耳朶を舐め鎖骨へと舌を這わしながら、寛いでいたままで飛び出してきただろう薄い部屋着の胸をひと撫でした。
その手は裾からじかに肌へと触れてゆき、汗ばみ始めた身体をゆっくりと味わう。
「嫌われたくなくて、ずっと側にいたくて、でも貴方を騙しているのが辛くて。」
打ち明けて終わりにしようと思った。
「嫌でしょう、気持ち悪いでしょう、だからオレを嫌いだと言って。」
引導を渡して。
カカシが手を離すと脚が支えきれず、ずるずるとイルカの身体が落ちる。カカシも膝を着き、二人共座り込んだがお互いに視線は別を向く。
「俺は、上役に失礼ですがカカシさんは親しい男友達だと、」
言葉が途切れ、続きを言おうと口を開くが出るのは嗚咽ばかりで、イルカは顔を手で覆って身体を丸めた。
カカシはゆっくりと立ち上がり、イルカに背を向けた。
「此処も他里の奴らに知られたし、ちょうどいいから引っ越すよ。また長期に出されるみたいだし。」
幕引きだ。任務に伴いイルカの前から消えても不思議はない。
「無駄です、そんな事じゃ終わらない。」
カカシが振り向くと、イルカが鼻水を啜り涙が顎から流れ落ちるままに顔を上げた。
「半年待ったから、この先何年でも同じです。」
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