十
国主の首を取り、地下牢に幽閉されていた木ノ葉の忍びも無事に保護し、全ては終了した。何故彼が殺されなかったかといえば、忍びとは無縁の国で、風の噂に聞いた報復が怖かっただけらしい。殺さなくとも報復はあるのだと学習しただろう、今更だが。
部隊を解散し、大国の後始末組を残して里へ帰還するのもひたすら走る、跳ぶ。里からごっそりと腕のたつ者達が抜けているのだ、こちらが襲撃されないとは限らない。
カカシは後始末組で残るのかと項垂れたが、お前の任務は終わったから帰って里を守れと、思いやりでイルカと共に帰還させられた。
報告しカカシが落ち着いたのは三日後、イルカの周囲、特にアカデミーが落ち着いたのもその頃だった。
そして半年のブランクも感じられないような、朝の同伴出勤とお迎えが再開された。
見た目は穏やかに変わりないがアスマと紅は気付いてしまった、二人の間にほんの少し広がった溝を。一人ずつ聞いてみよう、と。
「カカシよぉ、お前はどうしたい。」
酒より先に届いたアスマの直球に、カカシは息を止めた。
「終わらせなきゃ、とは思うよ。」
ただイルカの側にいたいだけなんて、いつまでも続く訳がない。
「どうやって?」
踏み込まれて、カカシはうっと顎を引いた。どうやって?
「解らない。」
正直に言えば嫌われないまでも、距離は今までよりも遠くなるだろう。悪者になって、自分から別れたとイルカが言うのも予想できる。
「どうしたらいい。」
カカシはアスマではなく自分に問い掛けた。自分が蒔いた種だ、始末をつけるのも自分だ。
久し振りに飲み比べだ、とカカシは無理矢理アスマを朝まで付き合わせた。
「イルカ、奢るわ。」
紅が報告書と一緒に叩き付けた言葉に、はいと答えたのは両隣だった。
え、と交互に左右を見る間にイルカの前には終了の札が置かれ、荷物を手に持たされていた。
「じゃあ借りてくわ、お疲れ様ねー。」
イルカの腕を掴む力は強くはないが、紅が醸す気配に断れずに無言で付いていく。
どれでもいいからと酒屋の棚から持てるだけイルカは押し付けられ、そのまま奥へ進むと酒屋が経営する立ち飲み屋だった。
「あなたはカカシが好きなの嫌いなの?」
こちらも直球だ。
イルカは口に寄せた酒をそのままに、正面の紅を見詰めた。言葉を探す合間も紅は手酌で飲み続けていたが、三杯飲んでグラスを置き答えは、とイルカを促す。
「そりゃ素晴らしい人ですから好きですよ。」
棒読みに答え俯いたイルカを、覗き込んだ紅がにやりと笑った。
「あらぁ、流されちゃったかしら。」
「いえ、親しくさせていただいていますが。」
ただ、恋だの愛だのとそんな気持ちは自分にはないが、カカシが自分に向ける感情が気になるだけで。
「要するにカカシ次第なのかしら。それとも逆かしら、まあいいわ。」
ずうっと茶番に付き合ってあげてもいいのよ。
最後の言葉は聞こえない振りをして、イルカは紅とこちらも朝まで利き酒に興じていた。
朝からすえた酒の残り香が汗腺から出ているような気がして、カカシもイルカも少し距離を取って歩いていた。
「すみません、匂いますよね。」
「いやオレは自分が匂うんじゃないかって思うけど。」
カカシが腕や腋に鼻を付けて嗅いでいるのがイルカには可笑しくて、一緒になって嗅いでみた。
「んー判りません。」
首を傾げたイルカに、今度はカカシが顔を寄せた。
「ですねー。」
生徒を近寄らせないようにしなきゃ、とイルカは息を心配する。
にんにくとどっちが良かったか、と笑いながらもお互いに薄皮一枚の違和感に気付いていた。
だが端からは変わらず甘く見えるらしい。半年もカカシが不在だったにもかかわらず信頼していたと、カカシの崇拝者達さえイルカを愛情深い恋人として認めたのだ。
「最近受付で、貰い物が倍に増えたんですが。」
どうぞと置かれた食べ物を仲間に分けてやっていたら、昨日は二人でだぞと睨むように言われたのだとイルカは首を傾げた。
「オレもですよ。」
カカシの家の冷蔵庫には、食べきれない程詰まっているらしい。
「期限は大丈夫なんですか。」
「さあ…見てないけど。」
物事に執着しないのは知っていたが、それはないだろうとイルカは焦る。
「今日寄っていいですか、俺が見ておきます。」
帰宅が深夜だと聞けば部屋にも入りやすい。カカシがいれば意識してまた何かやらかしそうな気がする、イルカは前科者だ。
「ありがたい、何か多すぎて面倒になっちゃったんです。欲しい物は手間賃として持ってっていいから。」
「やった、宝探しだ。」
子どもみたいと頭をぐりぐり撫でるカカシと、髪がぁと喚いて手を払うイルカの複雑な胸の内は、お互いには上手に隠されていた。
国主の首を取り、地下牢に幽閉されていた木ノ葉の忍びも無事に保護し、全ては終了した。何故彼が殺されなかったかといえば、忍びとは無縁の国で、風の噂に聞いた報復が怖かっただけらしい。殺さなくとも報復はあるのだと学習しただろう、今更だが。
部隊を解散し、大国の後始末組を残して里へ帰還するのもひたすら走る、跳ぶ。里からごっそりと腕のたつ者達が抜けているのだ、こちらが襲撃されないとは限らない。
カカシは後始末組で残るのかと項垂れたが、お前の任務は終わったから帰って里を守れと、思いやりでイルカと共に帰還させられた。
報告しカカシが落ち着いたのは三日後、イルカの周囲、特にアカデミーが落ち着いたのもその頃だった。
そして半年のブランクも感じられないような、朝の同伴出勤とお迎えが再開された。
見た目は穏やかに変わりないがアスマと紅は気付いてしまった、二人の間にほんの少し広がった溝を。一人ずつ聞いてみよう、と。
「カカシよぉ、お前はどうしたい。」
酒より先に届いたアスマの直球に、カカシは息を止めた。
「終わらせなきゃ、とは思うよ。」
ただイルカの側にいたいだけなんて、いつまでも続く訳がない。
「どうやって?」
踏み込まれて、カカシはうっと顎を引いた。どうやって?
「解らない。」
正直に言えば嫌われないまでも、距離は今までよりも遠くなるだろう。悪者になって、自分から別れたとイルカが言うのも予想できる。
「どうしたらいい。」
カカシはアスマではなく自分に問い掛けた。自分が蒔いた種だ、始末をつけるのも自分だ。
久し振りに飲み比べだ、とカカシは無理矢理アスマを朝まで付き合わせた。
「イルカ、奢るわ。」
紅が報告書と一緒に叩き付けた言葉に、はいと答えたのは両隣だった。
え、と交互に左右を見る間にイルカの前には終了の札が置かれ、荷物を手に持たされていた。
「じゃあ借りてくわ、お疲れ様ねー。」
イルカの腕を掴む力は強くはないが、紅が醸す気配に断れずに無言で付いていく。
どれでもいいからと酒屋の棚から持てるだけイルカは押し付けられ、そのまま奥へ進むと酒屋が経営する立ち飲み屋だった。
「あなたはカカシが好きなの嫌いなの?」
こちらも直球だ。
イルカは口に寄せた酒をそのままに、正面の紅を見詰めた。言葉を探す合間も紅は手酌で飲み続けていたが、三杯飲んでグラスを置き答えは、とイルカを促す。
「そりゃ素晴らしい人ですから好きですよ。」
棒読みに答え俯いたイルカを、覗き込んだ紅がにやりと笑った。
「あらぁ、流されちゃったかしら。」
「いえ、親しくさせていただいていますが。」
ただ、恋だの愛だのとそんな気持ちは自分にはないが、カカシが自分に向ける感情が気になるだけで。
「要するにカカシ次第なのかしら。それとも逆かしら、まあいいわ。」
ずうっと茶番に付き合ってあげてもいいのよ。
最後の言葉は聞こえない振りをして、イルカは紅とこちらも朝まで利き酒に興じていた。
朝からすえた酒の残り香が汗腺から出ているような気がして、カカシもイルカも少し距離を取って歩いていた。
「すみません、匂いますよね。」
「いやオレは自分が匂うんじゃないかって思うけど。」
カカシが腕や腋に鼻を付けて嗅いでいるのがイルカには可笑しくて、一緒になって嗅いでみた。
「んー判りません。」
首を傾げたイルカに、今度はカカシが顔を寄せた。
「ですねー。」
生徒を近寄らせないようにしなきゃ、とイルカは息を心配する。
にんにくとどっちが良かったか、と笑いながらもお互いに薄皮一枚の違和感に気付いていた。
だが端からは変わらず甘く見えるらしい。半年もカカシが不在だったにもかかわらず信頼していたと、カカシの崇拝者達さえイルカを愛情深い恋人として認めたのだ。
「最近受付で、貰い物が倍に増えたんですが。」
どうぞと置かれた食べ物を仲間に分けてやっていたら、昨日は二人でだぞと睨むように言われたのだとイルカは首を傾げた。
「オレもですよ。」
カカシの家の冷蔵庫には、食べきれない程詰まっているらしい。
「期限は大丈夫なんですか。」
「さあ…見てないけど。」
物事に執着しないのは知っていたが、それはないだろうとイルカは焦る。
「今日寄っていいですか、俺が見ておきます。」
帰宅が深夜だと聞けば部屋にも入りやすい。カカシがいれば意識してまた何かやらかしそうな気がする、イルカは前科者だ。
「ありがたい、何か多すぎて面倒になっちゃったんです。欲しい物は手間賃として持ってっていいから。」
「やった、宝探しだ。」
子どもみたいと頭をぐりぐり撫でるカカシと、髪がぁと喚いて手を払うイルカの複雑な胸の内は、お互いには上手に隠されていた。
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