2

2 カカシ
ゆうべイルカ先生とちょっとした行き違いがあって、彼は何かに怒ったまま夜中に帰ってしまった。
オレは、今日は(今日もだ!と突っ込まれそうだが、そんな事は無い)何もできず一日空を眺めていた。
夕方報告書を出しに行ったら、椅子から立ち上がったイルカ先生にこっそり呼ばれた。まだ怒っているのかと思い、とにかく謝っておこうとしたら先に頭を下げられた。
「すみません、これ持ってきてしまいました。今日一日困りませんでしたか?」
小声で窺うように聞いてくる上目使いのイルカ先生の手には、ゆうべ彼が買い物に出た時に渡したオレの財布があった。
「ああ、それはアナタ用ですよ。うちに来る時材料持ってきて料理を作ったり、冷蔵庫に買い置きしてくれたりして自腹切ってるでしょ。適当にお金入れとくから気にしないで使って下さい。」
なんだそんな事か…笑顔で返して、気にしていないと首を横に振る。オレとしてはアナタの機嫌の方が気になるんだけど。
「じゃあカカシさんはもうひとつ財布を持っているんですか?」
「いいえ、ほら忍服って隠しポケットが多いからお金は色んなとこに突っ込んでます。ただ小銭は音がするんで持ちませんが。」
何の不都合もないですよと、手品の様に札をあっちからこっちから取り出して見せると、イルカ先生の目が丸くなって、ついでに口も丸く尖った。
「えっ、えっ?」
オレの服と自分の手の財布を交互に見てうろたえる顔も可愛いなぁと、目尻が下がり口元が緩むのが自分でもわかる。
「話の続きは今夜うちで。その財布は預けておきますから、おつまみを宜しく。」
耳元で息を吹き掛け待ってますと囁くと、イルカ先生は足を縺れさせ派手な音をたてて椅子に座り込んだ。
声を出せず、真っ赤になってただうなづくだけのイルカ先生の顎のラインを人差し指でなぞると、オレは男らしく(見せ付けるように)大股で部屋を出た。
怒っているから今日は会えないかと心配していたが、なし崩しにうちに来る事を承知させた。とにかく誤解を解かなきゃ…多分、誤解、だよな、多分。いやダイジョーブ!? 何もやましいことはないんだ、うん。
「あいつ何で夕日に向かってガッツポーズとってるんだ?」
「イチャパラオーラが垂れ流しだから、理由は分かるでしょ?」
「ああ、いつもの事か。」
「そう、いつもの事よ。」
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