1 イルカ
遅い夕飯を終えて、お茶を飲みながらテレビを見ていたら『彼の浮気を確かめるための効果的なカマのかけ方』っていうのをやっていた。オレは何ということもなく見ていたのだが、隣のカカシさんが少し落ち着かなくなったのに気がついた。…試してみるか。
「カカシさん、今日この部屋を掃除していたら、茶色の長い髪が落ちていましたが…。」
「えっ?」
あ…目が泳いだ。右上に向いて、言い訳を考えてるか心当たりを探しているか、そんなところだろう。
「あ…う…いえ…、」
オレの方を見ない。
可愛い。思わず笑いがこみ上げる。ついでに別件のお灸もすえとくか。
「嘘です、何もありませんでした。それより昨日の夕方、道ですっころんで膝を擦りむいて大泣きしていたアカデミーの子を、わざわざ抱っこして家の前まで送ってあげたんですってね。今朝送って来た母親からお礼を言われました。でも、なんでオレに?と思ったら、その子が貴方の名前を聞いたら『イルカ先生の恋人』ってヌケヌケと言いやがったそうですね。お蔭様で『直接お礼を言いたいので、どの方か教えてください』とまで言われ、興味津々って目で職員室の中を覗くんですよ! オレが答えられないでいたら、横で聞いていたオレ達の関係を知ってる僅かひと握りの中の一人の同僚が貴方の名前を言っちまいまして、くそったれなことに今日は午後から保護者会で…オバサマ方に弄られまくりで。出席率百%の快挙で主任に褒められても素直に喜べないオレの心を、この拳に籠めてもカカシさんは上忍だから何ともないでしょうよね?」
一気に言ってしまうとオレは長い溜め息を吐いた。
商店街で買い物をするのも辛かった。歩くだけでも視線が痛かった。このストレスは横で首を傾げている阿呆の財布で解消してやる!
「じゃあ、おやすみなさい。」
「えっ、帰っちゃうんですか…。」
「余分な所に気を使い過ぎて疲れました。もう眠いので、失礼しますね。」
オレは自分の中での最高の笑顔でカカシさんを睨むと、ゆっくりとドアを開け外に出て思い切り勢いをつけて閉めてやった。勿論カカシさんの分厚い財布はオレの手の中にある。
二人の関係を保護者に知られたのはまずかったと思うが、皆優しかった。喧嘩したらいらっしゃいとか、愚痴は聞いてあげるからとか言われ、亭主関白のかわし方まで教えてくれるそうだ。
取り敢えず長続きするコツを聞いとこう。いや…浮気をさせない方法が先だ。あの人、毎日誰かに言い寄られてるもんなぁ…さっきのうろたえ方も過剰だったし。
カカシさんがきちんと断ってるのは知ってる。…でもやっぱり纏わり付く香りは嫌だ…あームカムカしてきた。明日、天麩羅を土産にしてぺちゃんこになった財布を返してあげよう。
オレは屋根の上を跳びながら、三日月に手を振ってしまった。
おやすみなさい、カカシさん。